97.魔導車
俺たちはダークハートに指定されていた場所までどうにかやってきていた。
と言っても、宮廷前なので特別向かうのには困らないのだが。
「国王たちは先に行ってるらしいから、俺たちは多分一番最後に魔界に着くことになるな」
「むむむ……一番乗りがよかったな……」
「そうか?」
俺が首を傾げると、エリサがうんうんと何度も頷く。
「やっぱり一番がいいよね! なんか特別感があるじゃん!」
「オッサンには分からん感情だな」
俺はもう一番になろうって気持ちがもう消え失せてしまったからな。
とはいえ若い頃は一番にこだわるのも分かる。俺だってそういう時期はあった。
「ふふふ……どんなのが来るのでしょうか……!」
ユイはというと、もう完全に一人の世界に入ってしまっていた。
なんかずっと目をキラキラと輝かせている。
少し小さな子どもを見ているようでオッサン、微笑ましくなっちゃうな。
でも突然叫ぶのは理解に苦しむが。俺怖い。
「そろそろなんだが……なんだ?」
腕時計を確認していると、遠くから何か聞いたことのない音が聞こえてきた。
なんだろう……馬車の車輪が回る音に近い気もするが……少し違うんだよな。
「ええ!? なんか馬もいないのに走ってる物体が近づいてきた!?」
「わぁぁぁぁ!! ファンタジーが近づいてきましたよっ!」
驚くエリサと感動しているユイ。
かなりの速度で走ってきた車体が目の前に止まる。
俺たちは半ばどうしようか悩んでいると、自動的に扉が開いた。
窓から顔を出した……恐らくは運転手であろう人物が朗らかに笑う。
「おはようございます、カイルさん。遠慮せず、どうぞ乗ってください」
額から一本の角が生えた――恐らくは鬼人族だろう人に促されるまま、俺たちは車体に乗り込む。
中は馬車……に近いが、椅子がとにかくふわふわしていて乗り心地がいい。
俺は感動していると、ユイが興奮気味に運転手に尋ねる。
「これってどういう乗り物なんですか!? 馬もいないのに走っていますが!?」
相変わらずだな、なんて思っていると運転手が丁寧に答える。
「これは魔導車と言って、魔力を源に動く車です。馬車よりも断然早いですし、疲れるという概念がないですから長距離を進むのにも向いているんですよ」
「へぇ……すごいな。魔界では当たり前の技術なんですか?」
「はい。かなり普及していますよ」
となれば、やはり魔界は人間界よりもかなり技術面では上なのだろう。
和解によって、この技術が人間側にも入ってくるとなると……移動手段に革命が起こるかもな。
「でも魔界はかなり遠いと聞いているが……本当に当日に間に合うんですか?」
「それもイエスです。まあ見ていてください、期待していていいですよ」
そう言って、運転手がにやりと笑う。
ほう……一体どれくらいの速度が出るのだろうか。
馬でも強化バフを付与した個体はかなりの速度が出るが……それ以上の速度が出たりするのだろうか。
なんて考えていると、魔導車が動き始めた。同時に、体に重力を感じた。
「うおお!? これ、すげえ速度出てないか!?」
俺は窓の外を見ながら、思わず大きな声を出してしまう。どんどん景色が移ろいで言っている……!
「わぁぁあ! すごいよこれ! これが魔族の技術なんだ!」
「こ、興奮しちゃいますぅぅ! ファンタジーィィィ!」
俺たちがわいわい騒いでいると、運転手はおかしそうに笑う。
「ははは! 喜んで貰えて嬉しいです。ここはまだ王都の街中ですから速度はそこまで出していませんが、開けた場所まで出ればもっと速度は出せますよ」
「マジか!?」
「マジ!?」
「マジですか!?」
これ以上の速度が出るって……一体どんな超技術なんだ……!
王都の人達も俺たちが乗っている魔導車を見て目を丸くしてしまっている。
なんならちょっとした騒ぎになっているようにも思える。
これは……本当にすごいな。