96.ファンタジーィィィ!!
「ともあれだ」
腕に付けている時計に目を落とし、時間を確認する。
「そろそろ急がないと不味いな。ダークハートが迎えを寄越すって言っていた時間が近づいてきた」
まだ王都の様子を見て回りたいところではあるが、俺たちには用事があった。
ダークハートが開催すると行っていた記念パーティに参加しなければならないのだ。
このパーティが成功するか否かで、和解が上手くいくかどうかが決まってくるようなものである。
「でも……魔界ってかなり遠かったはずだよね? パーティの開催は今日の夜らしいけど……間に合うのかな?」
魔界と言うのは、当然のようにここから距離がある。
馬車で向かおうとすれば……恐らく一週間はかからないにしても、それくらいはかかるだろう。
正直今日中に向かうのは現実的ではない。
「ただ、魔界側は人間側より高度な技術を持っているって噂だ。多分とんでも技術でもあるんだろうぜ」
オッサンの頭ではあまり想像できないがな。
「とんでも技術……! わたし、すごく気になりますね……! キラキラ……!」
ユイがかなり興奮した様子でニヤついている。
というか……キラキラって……。
確かに目は輝いているが……その輝きを自らキラキラって表現する人は初めて見たな……。
「お前……そんなとんでも技術とやらに興味があるのか?」
「はいっ! あります! なんだか夢みたいじゃないですか! 絵本とかっ! そんな物語に出てきそうなめちゃすご技術っ! 大好きですっ!」
「え、あ、ああ」
めちゃくちゃ興奮した様子で俺にぐっと顔を近づけてきたものなので、思わず困惑してしまう。
なんか突然夢見る乙女みたいな感じになったな……いや、そっちの方が年相応感があって安心はするけど。
てかお前そんなキャラだったか? オッサン突然キャラチェンされたら怖くて泣いちゃうよ?
「エリサ……ユイって……こんな一面もあったんだな……」
「じ、実は私も驚いちゃっている……かな……どうしたんだろ……急に……」
もう二人そろって動揺してしまっていた。
「ファンタジーィィィ!! 楽しみですねっ!! カイルさん、エリサっ!」
……ユイ……壊れちゃった……。
めちゃくちゃ両手を掲げて跳ね回ってる……オッサン怖いよ……。
「エリサ……俺はこれからユイにどう接すればいいのか悩んでしまっているかもしれない……」
「うーん……一緒に『ファンタジーィィィ!!』って叫んどく……?」
「いや……うーん……」
どうしたものかと悩んでいると、突然ユイがこちらに振り返ってきた。
目をかっぴらいて、なんだか普通じゃない感じだ。
「さぁ一緒にファンタジーと叫びましょう! さぁ、一緒に!」
やめろよ誘ってくるなよ。
「まあいっか……ファンタジーィィィ!」
覚悟が決まったのか、エリサが叫び始めた。
え、やるのこのノリ?
「ファンタジーィィィ!!」
「ファンタジーィィィ!!」
あれ、もしかして俺がやらなかったら……なんか空気読めないやつみたいになる?
というか、もうそういう流れだよね。どうしよう、オッサンもう家に帰りたくなってきた。
「……カイル!」
「カイルさん!?」
……そうか。もう逃げ場はないのか。分かった。ここはもうユイに付き合うことにしよう。
「ファンタジー……」
「声が小さいです!」
「ファンタジーィィィ!!」
「合格ですっ!」
グットサインを送ってくるユイを見ながら、俺は苦笑を浮かべることしかできなかった。
というかさっきのエルフがヤバい人を見るような目で見てきている。
これ、人間界の最初の印象が道ばたで突然奇声を挙げるヤバい種族ってならないよね?
今日は二話更新です。