9.腰……腰ぃ……
俺の合図とともに、二人が目の前に手を突き出す。
すると淡い光が集まり始め、次第に武器へと変化していく。
エリサには杖が、ユイには弓矢が。
二人はニヤリと笑い、武器を構える。
「エリサ! わたしに身体強化のバフをお願いします!」
「了解! バフ発動ぉぉ!!」
エリサの足元に魔法陣が生成されると同時に、ユイに光が集まる。
いいコンビネーションだ。
一人はバフに徹し、もう一人は攻撃に徹す。
各々の役割としては完璧じゃないだろうか。
って、すぐ分析しちまうのも歳を食っちまった証拠か。
スポーツの試合観戦と一緒で、こういうのは分析すると楽しいんだよな。
五体のオークがこちらに走ってきているが、二人は動揺しない。
落ち着いて、ユイは弓を引く。
「当たってください!」
シュン、という音とともに矢が放たれる。
どうやら矢にも攻撃強化のバフが付与されているらしい。
あれからはエリサの魔力は感じない。
となると、ユイが単独で矢にバフを付与したってことか。
「この二人、本当にCランクパーティなのか?」
到底Cランクパーティにはできない芸当だと思う。
さすがは勇者を目指す少女たちだ。
面白いじゃないか!
『ギシャ!』
一体のオークに命中。後ろに思い切り転げて、後方にいるオークを巻き込んだ。
現在三体のオークが転倒。二体のオークは動揺しているようだ。
「エリサ!」
「もちろん!」
ユイの合図とともに、エリサが杖を相手に向ける。
「行けぇ!!」
「《ファイア》!!」
ユイが放った複数の矢に、エリサが放ったファイアが宿る。
炎をまとった矢は、オークめがけて直進した。
それにより、オーク三体の討伐が完了。
また、炎が他の二体にも移ってダメージが常に通っている状態。
「よ、よし!」
「順調ですっ!」
だが、ここからが問題だ。
命の危機を覚えた生命体は誰でもそうだが、ここから真の実力を発揮する。
死を間近にして初めて、生物は本領を発揮するのだ。
『ギシャァァァァァ!!』
『ガァァァァァァ!!』
オークがこちらに向かって、必死の形相で走ってくる。
「き、来た!」
「う、撃ちます!」
二人は慌てて、矢や魔法を放つ。
しかしオークは止まらない。
いくら矢や魔法が当たっても、前進を止めない。
「ヤバい!!」
「これ、間違いなく不味いやつです!」
二人は冷や汗をかきながら攻撃を続ける。
しかし、オークは目前まで迫ってきてしまった。
「「あ――」」
しゃーねえ。
「よくやった二人とも。格上相手にここまでやれるやつなんて、滅多にいねえよ」
轟音が響き渡った。
衝撃波が俺の髪を揺する。
放った拳をすっと引くと、目の前にいたオークはバタンと倒れた。
「さすがは勇者志望……だ!?」
拳を振るいながら、二人に近づこうとした刹那。
思い切り二人が抱きついてきた。
もちろん俺は耐えることもできずに、後ろに思い切り倒れてしまう。
「かっこよすぎるよ!」
「イケオジです!!」
「ま、待て……お前ら、俺、腰、腰が……」
「あ、あああああ!!」
「大丈夫ですか!?」
「ぎ、ギリ……本当にギリ……」
俺はよろめきながら立ち上がり、苦笑する。
やべえくらい腰が痛い。
「エリサ……簡単なものでいいから痛み止めお願い」
「わ、分かった!」
エリサの回復魔法で、どうにか痛みをごまかす。
ふう、少しマシになった。
「ええと。それじゃあ、早速入るか。リエトン伯爵領に」
俺は腰を叩いた後、門の方へと歩き始めた。