86.魔族と人間の和解
「こんにちは、カイルさん」
静かな診察室にて、俺とクソ医者は椅子に腰を下ろして向かい合っていた。
後ろには一応エリサたちもいるが、どこか現実味がないような表情を浮かべている。
「世界が、また一つ大きく変わりましたね」
クソ医者は近くにあったペンを握り、くるくると手の内で回す。
「魔族と人間との和解。歴史上、このような出来事は数百年ぶりらしいですよ。いやー、長生きしていたら面白いこともありますね」
「クソ医者、あんた何歳だ」
「秘密です。秘密にした方が興奮することってあるじゃないですか」
「なんでてめえで興奮しなきゃならねえんだ」
「あら。魅力的で扇情的で素敵な私に興味ありませんか」
「ないな。くたばれ」
「酷いですね。泣きそうです」
このクソ医者は一体何を考えているんだ。
俺には正直理解ができない。
というか頭おかしいんじゃねえのか。
「ともあれ。世界は少しだけ平和になりました。実に素晴らしいことではないですか」
「まあな。まさか魔王から和解の連絡が届くだなんて思ってもいなかった」
魔王からの和解の連絡。それは驚くべきことだ。
理由は詳しくは知らないが、恐らくヴォルガンの一件が関係しているのだろう。
「しかし……魔王からの和解の連絡。それって国王宛ではありますが、同時にあなたにも宛てられていたようで」
「……ああ。俺に何の用なんだろうな」
魔王からの連絡は国王だけではなく、俺にも宛てられていた。
近々挨拶がしたいだとかなんとか。
正直怖くて仕方がないが、しかし国王様からも頼まれているから俺も挨拶しなくてはならない。
「出世しましたね?」
「してねえよクソ医者」