83.分かっているさ
「ちょ、ちょっと!?」
「わ、わたしはどうすれば!?」
俺の発言に驚愕を呈したのは、エリサたち二人だった。
まあ、そりゃ突然そんなことを言われると誰だって驚くだろう。
「二人は見学だ。悪いがオッサンに任せてくれると嬉しい」
言うと、二人は動揺しているようだった。
しかしながら、少し考える素振りを見せた後。
「も、もう! なんか分からないけど任せた! 私にできることなんてないだろうし! レベルが高すぎるのよ!」
「右に同じです! カイルさんがそう言うなら、わたしは従います!」
「色々とすまないな」
俺は二人に手を振って、前を見る。
ヴォルガンは紅い瞳をこちらに向け、微笑を浮かべた。
「舞台は整った。遠慮はいらない。殺す気で来い」
「お前もな。こっちも準備はできている」
お互い見つめ合い、静寂が訪れる。
静かに向かい合った後、俺は拳を構えた。
その瞬間にヴォルガンも構え、魔法を放ってくる。
「はぁ!!」
俺は放たれた魔法を殴りつぶす。
先程までもろに喰らってきたが、だいぶ目が慣れてきた。
ダメージは蓄積されるが、殴って消し去る方が幾分かマシだ。
「ふふ……ははははは! 分かっているさ! 分かっているとも!」
何度も相手の攻撃を無効化していく中、ヴォルガンはケラケラと笑っている。
「分かっているんだ! 既に実力差は明白! オレはお前より弱い!」
そう言いながらも、彼は攻撃を止めることはない。
「だが、オレは信じている! 自分が信じた正義を信じている! 魔王を殺し、地位を手に入れ、全ての生命を選別する! そうすれば世界は平和になり、そしてオレは真の英雄になれると!」
ヴォルガンの攻撃は強力だ。
殴る度に拳から血が滲んでいるのが分かる。
だが、こっちにも信じている正義があるんだ。
俺は少なくとも、ヴォルガンの言っている正義が正しいとは思えない。
「生憎と俺はそうは思わない! 生命の選別だ? 理想論を語るな! 残念ながら生命はそう上手く作られていないんだ!」
魔法を殴り飛ばし、嘆息する。
「お前がやろうとしているのは自分の理想論の押しつけだよ。それは英雄でも主人公でもない」
最大までヴォルガンに近づくことに成功した。
今、目の前にヴォルガンの姿がある。
「ただの支配者だ。馬鹿野郎」
俺はそう言って、拳を向ける。
「ヴォルガン。お前は犠牲になった者たちと共に眠れ」
刹那、俺は最大限の一撃をヴォルガンに当てる。
直撃した瞬間、衝撃波が周囲に轟いた。
ヴォルガンは耐えることもできずに、そのまま吹き飛ばされてしまう。
遠くの壁に激突したかと思うと、次第に景色が再生されていく。
気がつく頃には本だらけの部屋にいて、ヴォルガンは本の山の上に横たわっていた。
「カイル!!」
「カイルさん!!」
勝負が決したと分かったのか、エリサたちが駆け寄ってきた。
「ちょっと待ってくれ」
俺は二人を制し、前を見る。
本の山の上に横たわっているヴォルガンがゆっくりと手を挙げたのだ。
まだ生きている時点で、勝負は決まっていない。
最後の最後までやる責任が、まだ俺にはある。
そう思い、ゆっくりとヴォルガンの方へと歩き始めた。