82.俺たち二人ができること
「げほっ……はは」
俺は打ち付けられた体の痛みを堪えながら、のろのろと起き上がる。
さっきまで壁なんてなかったのにな。
多分ヴォルガンが生成したのだろうが、殺意が高すぎる。
「血が出てきた。これ、何年ぶりかな」
口から溢れてきた血液を手で拭い、少し笑ってしまう。
相当な力で打ち付けられたのだろう。
なんだって、俺のステータスはぶっ飛んでんだ。
ぶっ飛んでるステータスに対して、ダメージを与えることができた事実に驚いてしまう。
「そうか。攻撃は通ったか。ここまでしてやっとか」
ヴォルガンは呟き、手を向けてくる。
「さ、させない!」
「ダメです!」
対して、エリサたちは咄嗟の判断で奴に攻撃を打ち込む。
だが、それはほとんど無意味に近かった。
攻撃は確かに当たった。
しかし決して届くことはなかったのだ。
彼の力は今、既にほぼ全ての者を凌駕している。
「う、嘘……! ヤバい!」
「カイルさんが……! 攻撃、通ってください!!」
何度も何度も攻撃を打ち込む。
しかし無意味。ヴォルガンには一切のダメージは蓄積されていない様子だった。
彼は二人に見向きもせず、俺に手を向ける。
「攻撃が少しでも通ったなら、死ぬまで攻撃を一方的に続ければいいだけだ」
「……来いよ。ヴォルガン」
瞬間、数多もの魔法陣が空中に浮かぶ上がる。
幾重にも分散し、広がり、魔法陣は急速に回転を始める。
「《遺失ノ雨》」
数多もの魔法陣から槍が一斉に放たれる。
光の速さで迫ってきたそれは、いとも簡単に俺の体を貫いた。
さながら雨のように、降り注いでくる。
槍は突き刺さる衝撃で体が揺れ動き、血があふれ出してくるのが分かる。
これがヴォルガンの力。
最強だ。
強すぎる。
あまりにも強すぎる。
こんなのを相手にしたところで、負けは確定している。
「はっ……はぁ……」
俺が普通の人間だったら。
「生きてるな……ギリギリ生きてるよ……」
肩、腹、足、あらゆるところに突き刺さった槍をゆっくりと引き抜く。
そして、魔法の知識がほぼない俺でもできる簡単に回復魔法を発動した。
同時にゆっくりと体が治癒していく。
「お前は最強だ。危うく死ぬところだった」
最後の槍を引き抜き、俺はぐっと握りしめる。
「だが、ここで死んだらお前の歪んだ英雄譚が正史になっちまうからな。これくらいで死ぬわけにはいかない」
槍を握り潰し、ヴォルガンを睨めつける。
「どうやら、俺の方がお前より強いらしい」
「ふは……そうか。この攻撃から生き抜くか。そうか。そうか」
ヴォルガンは顔を手で覆い、笑みを浮かべる。
しばらく笑った後、ふうと息を吐いた。
「さっきのがオレの最強の技だよ。これ以上の物は期待しても出てこない」
だが、彼は決意めいた表情を浮かべる。
「でも負けるわけにはいかない。オレには理想がある。オレには願いがある。オレが絶対に主人公になるんだ」
「生憎と俺もだよ。なぁヴォルガン」
「分かっているとも。オレたち……いや、オレができることは一つしかない」
言いながら、俺たちは同時に呟く。
「「どちらかが死ぬまでやろう」」