81.ギリギリを超えた領域
「もうギリギリだったんだけどなぁ……」
ヴォルガンは静かに手のひらを大きく広げ、息を吐く。
乾いた笑みを浮かべて、俺をじっと見てきた。
「舐めてたよ。だからギリギリじゃなくて、本当に最後の最後。本気を出さないと行けない」
「ううわぁ!? 急に魔物が消えた!?」
「壁も消えてます! カイルさん! 大丈夫ですか!?」
「二人を解放した……?」
ヴォルガンの行動に違和感を覚える。
どうしてわざわざエリサたちを解放したんだ。
本来なら、俺とは絶対に合流させないと思うのだが。
「どうしてかって? だからギリギリだったんだよ。ギリギリだったのに、最大限出せってお前が言うんだ。そりゃ個別の面倒なんて見れない」
言いながら、ヴォルガンは目を閉じる。
そして、口ずさんだ。
「《幻魂・終着》」
刹那、数多の魔族が召喚される。
「な、なんだ!?」
「どういうこと!?」
「こ、これは一体……!」
人数は……数え切れない。
少なくとも数十人という規模ではない。
数百人。恐らくそれくらいだろう。
こんな魔族を大量に召喚するって……一体何をする気だよ。
「もうギリギリじゃない。これが限界だ。カイル」
そして、魔族たちが消えた。
否、彼が発した言葉の通り終着したのだ。
魔族は魂となり、ヴォルガンに吸収されていった。
「こんな技、ありかよ……」
ヴォルガンはゆっくりと目を開き、俺を見据える。
「カイル。お前はオレの英雄譚には必要ない」
獣のような、魔獣のような。
ありえない量の魔力が彼からあふれ出してくる。
「キツい……わね……」
「今にも倒れそうです……」
「ああ。これ、圧がやべえ」
ヴォルガンは手を広げ、ゆっくりと歩いてくる。
一歩、一歩と近づいてくる度に足が震えた。
重力が何十倍にも増大したかのような感覚だ。
「これがオレが編み出した技だ。これが魔王に認められなかった技だ。これがオレの終着点だ」
ヴォルガンは語る。
語りながら、こつこつと床を鳴らす。
「限界の勝負だ。カイル」
「ははぁ……魂の吸収か。お前の体に、今何百人もの魂があるってわけだな。そりゃ、こんな強くなるよ」
俺は重たい体を動かし、前を見る。
こいつが奴の本気。
ギリギリを超えた限界の領域。
「恐れたか?」
ヴォルガンが尋ねてくる。
どこか達観した様子にも感じた。
しかしながら俺の答えはこうだ。
「イージーゲームだよ。ヴォルガン」
「さすがだ」
刹那、奴が手を掲げたかと思うと巨大な波のような何かがこちらに飛んでくる。
音速、光速の一撃だった。
「カイルさん!!」
「カイル!!」
俺は避けることもできずに、波に呑まれた。
ガツンと壁に当たり、体がミシミシと軋む。
「はは……やっべ」
俺は苦笑しながら、遠くにいるヴォルガンを睨めつけた。