8.オークの群れ
「ああ……腰が痛え……」
「大丈夫?」
「かなりキツそうですけど……」
「気にすんな……ああ、やっぱり力は有り余っても体はちゃんと歳食ってるんだな……」
二日でリエトン伯爵領に着くというのは、あくまで限界まで頑張ったらたどり着けるというものである。
初日は早めに宿を取って、早朝から出発することにしていたのだが、これがキツイ。
早朝に出発してから、休みなしで座っているせいで俺の腰は限界が来ていた。
これ、やっぱり病院には通院した方がいいやつだ。
くうう……痛え。
「それよりも、そろそろリエトン伯爵領に入ったんじゃないか? こんだけ長いこと走ってるんだ。もうちょいだろ」
「聞いてみましょうか」
そう言って、ユイが小窓から顔を出して御者さんに確認をし始めた。
俺はその間、硬い壁に背中を預けて唸っていた。
大丈夫、そろそろこの苦痛からも解放される。
「え……そうなんですか?」
「どうしたのユイ~?」
しかし、なにやらユイの声音が曇っている様子だった。
ただ今の場所を聞くだけで、ここまで曇るなんてことは普通ない。
何かあったのだろうか。
「どうした?」
俺が尋ねると、ユイは困った顔を浮かべながら頬をかく。
「どうやら領地に入るための門付近に魔物が発生しているらしく、どうも近づけないらしくて……」
「え……マジ?」
「大マジです。入ってきた情報によると、今回の討伐対象であるワームにおびき寄せられたオークの群れらしく」
「ああ……オークか。ワームは確かに栄養が豊富な成分を吐き出すからな。それ目当てってところか」
「門番である兵士がどうにか駆除しようとしているらしいのですが、苦戦しているようです」
「なるほどな。しゃーねえ、俺たちも加勢するか」
「そう言うと思ってました!」
「だよねだよね! やっちゃおう!」
やることは決まったので、俺たちは椅子から立ち上がる。
そして、御者さんにここで降りることを伝えた後、門付近まで走っていくことにした。
「見えた。あれがオークの群れか」
俺たちの目の前には、五体のオークの姿がある。
兵士が対応してあの数ってことだろうから、よっぽどの軍勢だったのだろう。
「んじゃお二人の実力も見たいから、やれるだけやってくれ。残りは俺がやる」
「分かりました!」
「まっかせて!」
一旦、二人の行動パターンを把握しておきたい。
動きさえ分かれば、今後一緒に行動する上で作戦を練りやすいからだ。
さすがの俺でも、全てを対処するなんてことができない。
それに、それじゃあパーティじゃないと思うし。
彼女たちの目標は勇者の称号を手に入れることなんだ。
オッサンだけ張り切っても仕方がない。
「んじゃ、オークの視線を兵士から俺たちに向けることにするか」
「「え……?」」
「当たり前だろ。二人の実力を見るんだから」
「……私たち、死ぬかもね」
「さよなら現世、こんにちは天国……」
「おいおい……どうしたどうした」
二人が神に祈りを始めたので、俺は苦笑してしまう。
さっきまでの元気はどこに行ったんだ。
「ま、まあ冗談だけどね! 全然構わないよ! 相手、討伐ランクBだけど! 格上だけど!」
「少しだけ、ほんの少しだけ怖いだけです! はい!」
「それならいいけど……んじゃっと。兵士のみなさーん! 加勢しまーす! とりあえず安全なところに避難してくださーい!」
俺は声を上げて、兵士たちの方に手を振る。
突然の加勢に驚いた様子の兵士たちであったが、かなり苦戦を強いられているようだったからか、すぐに手を振り返してきた。
そして、門の扉の奥へと走っていく。
「ふう。さて、と」
俺は足元に転がっていた石を拾い上げ、兵士たちを追いかけようとしているオークを見据える。
「そいっ」
ぐっと構え、そして石を放り投げる。
――ヒュン!!
「はや!」
空気を切り裂く音と共に、一瞬にして石ころがオークの方へと直進していく。
しかし、決して当てはしない。
あくまで注意をこちらに向けるのみだ。
俺が放った石はオークの足元に落下し、噴煙を上げる。
「やっべ……力のコントロール、難しいな」
地面が揺れるのを感じた後、噴煙が消え去るのを待つ。
『ギ、ギシャァァァァァ!!』
「あ、でも無事っぽい。よかった」
悲鳴を上げているオークではあるが、ダメージは微小なようだ。
こちらに気がついたようで、棍棒を振り回しながら走ってきている。
「んじゃ、二人とも」
俺は手をあげ、そして前に振り落とす。
「戦闘開始」
「「ラジャ!!」」