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77.本だらけの部屋

「……本だらけだ」


 扉を通り抜けた先には、山のように本が積み上げられた部屋があった。


 巨大な本棚が並んでいるが、それを上回る量の本によって棚という機能をほぼ失っている。


 床をも浸食した本を避けながら歩いていると、隣から風切り音が聞こえた。


「あ」


「わわ! カイル!」


「カ……カイルさん!」


 慌てた様子で二人が別々の扉から出てきた。


 瞬間、彼女たちが使用した扉が霧散する。


 その様子を一瞬不思議そうにはするが、もう慣れたもので俺含めた三人は気にもしなかった。


 それよりも、もっと気にするべきことがある。


「二人とも、無事だったんだな!」


「ええ! でも正直……ヤバかったわ。突然一人になるし、変な声は聞こえるし、魔物は大量に出てくるしで……」


「死ぬかと思いましたよ……奇跡的に生きていますけど……」


「すげえよ。よかった」


 俺は胸を撫で下ろして、大きく息を吐く。


 よかった。この様子だと彼女たちは特に問題はなかったようだ。


「にしても、ここすごいわね」


「本がたくさんあります」


「本当にな」


 言いながら、近くにあった本を手に取る。


 魔法……なんだこれ。


 恐らく魔導書なんだろうけど、なんかずっと術式ばっか書いてるなこれ。


 普通は魔法の説明があったりするんだけど――。


「ってこれ、一冊で一つの魔法を記しているのか!?」


「めちゃくちゃ分厚いわよ……500くらいはあるんじゃない?」


「全部……術式を書いているって、どれだけ高度な魔法なんでしょうか」


「これも。これもだ」


 置かれている魔導書を手に取り、一つ一つ確認していく。


 全てではないが、多くの書籍が一冊で一つの魔法を記しているものだった。


 他は哲学的なもの……全部は分からないな。


 恐らくかなり難しい本だってのは分かる。


「あまり触らないでくれるか。大切なものなんだ」


「っ――!?」


 咄嗟に距離を取る。


 ズザザと積まれていた本が崩れ、音を立てた。


 エリサとユイもすぐに距離を取ったらしい。


 二人は武器を構えて、正面の男を睨めつけていた。


「ヴォルガン……!」


「本はオレの好きなものでね。本は素晴らしいよ。知らないものを何でも教えてくれる」


 ヴォルガンは本を手に取り、フードをゆっくりと翻す。


「……っ」


 薄いグレーのような色の長い髪。


 紅い瞳がこちらを捉え、じっと見据えてくる。


 相変わらず外套のせいで体のラインは見えないが、少しばかり見える腕から筋肉質ではあるのだろう。


 青年のようであり、少年のようにも捉えることができる男は本を閉じる。


「一応最後に念のため。本当にオレと手を取り合うつもりはないんだな」


「……ない。生憎とお前に心を開けるような人間じゃないんだ」


「そうか。残念だ」


 ヴォルガンはゆっくりと近くにあった本棚に近づく。


 たまたまか、それとも元からなのか。


 空いているスペースに本を入れ込み、こちらに振り向く。


「勝負をしよう。最終決戦だ」


 言って、ヴォルガンは手を突き出す。


 その動作と同時に、周辺の景色が吹き飛んだ。


 パズルのように剥がれ墜ちていき、気がつく頃には広い空間に佇んでいた。


「武器を手に取り、殺意と意思を込め、己の正義を信じて戦いあうんだ」


 ヴォルガンは手のひらを広げ、少しばかり口角を上げる。


「さあ、聖戦のお時間だ」

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