76.待ってろ
『順調そうだな』
構えていると、再び声が脳内に響く。
どうやら、ヴォルガンはどこからか俺の様子を見ているらしい。
「ああ。あんま舐めない方がいいぜ、オッサンをよ」
『舐めてはいない。見ているだけだ』
「随分偉そうなご身分だこと」
全く、趣味が悪い。
俺は息を一つ吐いた後、眼前の敵を見据える。
今はヴォルガンに構っている暇はないんだ。
目の前のことを処理しなければならない。
「さて、と。お前の弱点は恐らく剣、つまりは斬撃弱点なわけだが」
斬撃弱点だってのは分かっているのはいいんだけど……剣なんだよな。
問題はあいつの足に突き刺さってること。
「分かってる分かってる。お前は恐らく、剣を壊せば俺は勝てないって思っているよな」
ワイバーンは分かっているのか、既に自分の刃を剣に近づけていた。
あと数秒、いやコンマ単位か。
それくらいで破壊されちまう。
そうなってくると、俺が勝つ手段がなくなるわけだ。
ともあれ、問題はない。
断じて、それは問題にならない。
「近づけさせなければいいわけだからなっ!」
俺は思いきり地面を蹴り、一気に加速する。
視界が掠れ、目にも留まらぬ早さで移ろいで行く。
力技だが、今はそれが正解だ。
『ギュイ!?』
ワイバーンが剣に到達するよりも前に、俺が剣に触れる。
引き抜き、すかさず体を回転。
そのままワイバーンの首を斬り落とした。
悲鳴を上げるまでもなく、バタリと倒れる。
嘆息しながら立ち上がり、目の前に控えている雑魚たちを見る。
「覚悟しとけよ。お前らを倒したら、ヴォルガンをぶっ飛ばしてやる」
言って、俺は剣を仕舞う。
ゆっくりと拳を構え、息を整える。
「速攻だ!!」
俺は駆けながら魔物を倒していく。
一発。二発。三発。四発。五発。
全てが魔物にとって致命傷だった。
魔物は地に伏せ、消えていく。
「ラスト!!」
最後の一発をかます。
確かな感触とともに、最後の魔物が消滅した。
『素晴らしかったよ。いい戦いだった』
「そうか。わざわざ褒めてくれてありがとう」
手を払いながら、脳内に響く声に返事をする。
そして。
「次はお前の番だ。さっさとエリサとユイに会わせろ」
『もちろんだ。約束は守るとも』
刹那、目の前の空間が捻れる。
静かに音を立てながら歪み、次第に扉へと変化していく。
一応裏を覗いてみるが、別に何かがあるわけでもない。
本当にファンタジーチックだな。
「待ってろ」
『ああ。楽しみだよ』
俺はそう言いながら、扉を開いた。