74.王道って知ってるか
「とはいえ……オーガにワームにサイクロプス。通常種のドラゴンからワイバーンまでいやがる。勢揃いじゃないか」
目の前に佇む魔物を眺める。
それはもう、絶望的な光景だ。
かかってこいだなんて言ったけど、あまりにも無茶な戦いだ。
馬鹿げている。
さながら漫画の演出だ。
「粋なことをしやがんねぇ……オッサン、少年漫画好きだから燃えちまうぜ!」
俺は思い切り地面を蹴り、その場から跳躍する。
空中でくるりと回転をしてみせて、一番近くにいたドラゴンに向かって蹴りをかます。
轟音。
ドラゴンは大きく仰け反り、掠れた悲鳴を上げた。
口からメラメラと炎が溢れると同時に、赤い液体も垂れる。
刹那、控えていた魔物たちが俺に向かって一斉に攻撃を開始した。
「やってやろうじゃねえか!!」
俺は声を大にして叫び、拳を突き上げる。
こいつら全員、ぶっ潰す。
『ギャァァァァァァァァ!!』
魔物たちの咆哮が轟く。
オーガが手のひらをこちらに向け、ぐっと握りしめる。
物理攻撃か――と思ったが、すぐに違うことに気がつく。
魔法だ。
オーガが使うはずのない、魔法を扱おうとしている。
つまりは特殊能力と言ったところだ。
しんしんと寒い空気が流れ込んできたかと思うと、オーガが己の拳を凍てつかせて俺に放ってきた。
それだけじゃない。
呼応するかのようにサイクロプスがぐっと構え、勢い任せに足蹴りをする。
二体からの同時攻撃。
普通ならば死んでいる攻撃。
「ははっ。知ってるかお前ら」
二体の魔物は驚愕を呈していた。
俺が両手で彼らの攻撃を防ぎ、けろっとしながら笑っていたからだろう。
「少年漫画で言うオッサンキャラはな、実のところ最強ってのは王道なんだぜ」
これくらいの攻撃余裕だ。
なんせ俺の能力はおかしくなっているんだ。
人間を逸脱している――普通じゃないのだから、こんな普通の攻撃をされたところで。
無駄である。
「んじゃ俺の番だな!」
こいつらが頭を使った攻撃をしてくるのだ。
ならばこちらも頭を使おう。
とはいえ、かなり筋肉任せな技だけれど。
ふぃと拳に息を吹きかける。
その瞬間に拳にはメラメラと炎が宿り、ゆっくりとゆらめく。
「氷には炎だよなぁ! オーガさんよぉ!?」
構えるなんて動作は必要ない。
ただ思うがままに拳を放つだけ。
「オラァァァァッッッッッッ!!!!」
オーガも慌てて拳を構え、俺に対抗してくる。
炎の拳と氷の拳がぶつかる。
轟音と共に衝撃波が走る。
オーガは抵抗する。
だが、無意味だった。
彼の拳にはヒビが入り、最後には砕け散る。
「はぁぁぁぁぁぁ!!」
俺の拳がオーガの腕、体。全てを破壊していく。
最後には完全に消失し、氷だけが残った。
『ギュウウ……!』
『グガァァ……』
それを見た魔物たちが歯を噛みしめる。
「よーし。オッサン、頑張っちゃうぞ」
にやりと笑い、魔物たちを睨めつけた。