71.話をしよう
「……っ! 二人とも、いったん下がれ!」
「え、ええ!?」
「なんですか急に!?」
「いいから早く!」
俺は咄嗟に退き、自分が入ってきた方へと戻る。
が、すぐに壁にぶつかってしまった。
後ろを振り返ってみると、先程まであったはずの扉はなくなっていた。
『そう怖がらなくていい。平和的に話をしようじゃないか』
球体が明滅する。
やっぱりあれだ。
あの時、森の中で俺に語りかけてきた光。
「お前、ヴォルガンか?」
俺は拳を構え、いつでも攻撃できる体勢に入る。
しかし光は明滅しながらも、攻撃は仕掛けてこようとはしない。
『恐れなくてもいい。オレの姿が恐ろしいか? なら普段の体を映し出そうか』
映し出す……という言い方から、これは実体ではないのだろう。
幻影、まやかし、それらの何か。
光は一際輝いたかと思うと、次第に人間のような体へと変化していく。
『幻影だが、まあ多少はマシになっただろう。改めて、ようこそ』
「いいから言え! お前がヴォルガンか!」
『全く……お前はしつこいな。オレがヴォルガンだ。これから、英雄になる男だ』
そう言いながら、フードを深く被った男が語りかけてくる。
「お前が英雄だ? ふざけたことを言うな。さっさと実体を現せ」
討伐対象が向こうから挨拶をしてくれるのなら都合がいい。
すぐにぶっ飛ばせば俺たちの任務は完了だ。
『いや。まだ実体を現す時じゃない。少しばかり、君とは話がしたかったんだ。なんせ、お前も英雄になろうとしているのだ。オレと同じ、英雄に』
ヴォルガンは手をこちらに向けてくる。
攻撃――と思ったが、ただ彼は指を弾いた。
一瞬呆気に取られてしまうが、すぐに意識を集中させる。
「あ、あれ!? なんかカイルの方に行けない!」
「見えない……壁があります……なんですかこれ」
振り返ってみると、エリサたちが手を伸ばしてきていた。
しかし、一定のラインから先には手が届かない様子である。
俺も慌てて彼女たちに駆け寄ろうとするが、ガコンと見えない何かに当たった。
「壁……だ」
ユイが言っている通り、見えない壁があった。
壁に触れて、思い切り力を込めても破壊できない。
『オレはお前と話がしたいんだ。だから、少しだけ彼女たちには待って貰うよ』
「……二人の安全は保証してくれるんだろうな」
『もちろん。オレはそこまで卑怯な者じゃない」
言って、ヴォルガンが指を弾くと、何もないところに椅子と机が生成された。
彼はゆっくりと椅子に腰を下ろし、俺の方を見る。
「さぁ。座ってくれ」
「……分かった」
俺は言われるがまま椅子に座り、目の前にいる男を見据える。
『会いたかったよ、カイル。オレと似ている、人間』