70.ようこそ
「この宝石どうなってんだ……? こういう風に変化する物質なんて見たことがない」
俺はカギに変化した宝石をまじまじと見つめる。
不思議な装飾がされたカギだ。
どことなくファンタジー感がある。
「鍵穴……だよな。これ」
俺は目の前に現れた鍵穴らしきものに目を向ける。
本当にこれでどうにかなったりするのか?
正直、信じることができないんだけど。
「って――うおお!?」
考え込んでいると、唐突に手に持っていたカギが暴れ出した。
生き物のように勝手に動き、俺の腕を鍵穴へと誘導する。
「待て待て待て! ちょっと待ってくれ!」
心の準備ができていない。
万が一事故が発生したら、エリサたちが心配だ。
二人だけじゃ危険すぎる。
それに、俺もこんなところで死ぬわけにはいかない。
「うおおお!?」
ガチャリ。
そう音を立てて、鍵穴にカギがはめ込まれる。
恐る恐る目を開けてみるが、何も起こらない。
俺の腕が異空間に飲まれて抉られたりだとか、そんなことは発生していない。
「……捻れってことか?」
空いている左手をカギに添えて、そっとひねってみる。
すると、目の前に存在していた歪んだ空間が膨張したかと思うと、一瞬にして霧散した。
強烈な光が発せられ、思わず目を閉じてしまう。
「扉か」
そこには、巨大な扉が佇んでいた。
さっきまで存在しなかったものだ。
扉の裏側を覗き込んでみると、普通に地下洞窟へと続く道があった。
つまりは、この扉は何もないところに『扉』単体で佇んでいるわけだ。
「明らかに変な場所に繋がってそうなやつだな」
「カイル! 今のすごかったね!?」
「なんかばあああって! やばかったです!」
二人が半ば興奮した様子で駆け寄ってきた。
心配というより、興奮が勝ってしまっているらしい。
その様子に思わず苦笑してしまう。
「俺も恐ろしかった。まあこれで、目的の場所へ行けそうだ」
扉をタンと叩き、ふうと息を吐く。
「この先に、ヴォルガンがいるのかな?」
「さあな。でも、何かはあるだろう」
なんせ、イリエさんに渡された宝石が導き出した場所なんだから。
さっきまでカギの形に変化していた宝石は、気がつく頃には元の状態に戻っていた。
全く、不思議なものだ。
「心の準備はできたか? こっから先は本当に何が起こるか分からない」
なんせ空間が歪むほどの現象が発生していたのだ。
その中に入るとなると、自分たちの常識は通用しないかもしれない。
「大丈夫。できてるわ」
「わたしも問題ありません」
「よーし。俺もだ。んじゃ、行こう」
俺はそう言って、扉を開いた。
瞬間のことだ。
『ようこそ』
扉をくぐると、浮遊する小さな球体に出迎えられた。