67.不気味なこと
「……朝か」
俺は眠たい眼を擦りながら、ぐっと伸びをする。
特殊個体の魔物と戦闘した後は、エリサたちに代わって貰って爆睡していた。
ある程度情報は共有しておこうと思ったのだが、あまりの眠さに耐えられなかったらしい。
同時に、「あの二人は大丈夫だろうか」という不安に駆られて慌てて起き上がった。
「日が見えてきた頃合いに交代したから、そこまで危険な魔物はいなかっただろうが……」
俺は冷や汗をかきながら、周囲を見渡す。
「あ。起きた!」
「おはようございます!」
そんな声がしたと同時に、ふうと一安心する。
彼女たち二人はパタパタとこちらに駆けてきて、腰に手を当てた。
「眠れた? もうちょっと早く起こしてくれたら良いのにさ」
「そうです。わたし、交代する時すごく心配でした」
「心配かけてすまないな。俺は大丈夫だよ」
とりあえず二人が無事だったことを喜ぼう。
問題なく、朝を迎えることができた。
「二人こそ大丈夫だったか? 何か変なこととかなかったか?」
「変なことは特になかったかな。特殊個体じゃなくて、普通の魔物しかでなかったし」
「ですね。特に問題はなかったです」
「そうか。……とりあえずあれだな。地下洞窟へ向かう前に情報共有をしておきたい」
俺は近くにあった木に背中を預けて、嘆息する。
「夜中。なんか変な現象――人物って言っていいのかな。とにかく変なのと邂逅した」
「変なの?」
「変なの……というのは?」
二人は小首を傾げる。
具体的に言ってくれと問われてもなかなか難しいのだけれど。
「靄のような何かに体を引き込まれて『見つけた』だとか言われた」
「……ん?」
「……ええと?」
「だよなぁ」
予想通りの反応である。
俺だってこんな話を突然されたら首を傾げる。
なんなら「この人大丈夫かな……」って心配になる自信もある。
「詳しいことは俺も分かってないから説明はできない。とはいえ、これが俺の妄想だったりするわけではない……って言っても信じてくれるか?」
若干不安になりながらも尋ねる。
めっちゃ自信ない。
「もちろん信じるわよ! カイルが嘘を吐くわけがないじゃんね!」
「そうです!」
「二人とも……!」
半ば感動してしまう。
こんなオッサンの意味不明な発言を信用してくれるだなんて。
「とはいえ……不気味ですね。何か嫌な予感がします」
「俺もだ。まあ、警戒しておいて損はないだろう」
そう言って、腰に付いている埃を払う。
「地下洞窟に向かおう。ここでじっとしていても何も始まらない。全てはヴォルガンに会えば分かるし解決することだ」
「そうだね。行こう」
「行きましょう」