65.《耐久強化微少》
「珍しい魔物を見ると興奮しちまうのは、完全な職業病だな」
俺は目の前にいるケンタウルスを眺めて、にやりと笑った。
拳をぎゅっと握り、相手を見据える。
「まあ、事が事だからあんまり笑えないんだけども」
他の特殊個体と同様、相変わらず意識が感じられない。
最初こそ不気味だと思っていたけれど、この惨状だと少しばかり同情してしまう。
魔物とはいえ、こんなことに利用されるのは不本意だろう。
「俺が対応可能な個体であってくれよ……!」
地面を蹴り、相手の懐へと駆けていく。
油断は絶対にしない。
間違いなく、確実に。
相手へと攻撃を打ち込む。
放たれた拳はケンタウルスの腹へ直撃し、衝撃が走る。
空間が震え、轟音が響く。
「よっと」
相手は衝撃に耐えることができず、思い切り後方へと吹き飛んでいく。
地面をえぐりながら目の前の木々にぶつかった。
土煙が上がり、視界が塞がる。
「ちょっとやりすぎたかな」
かなりの音だったから、エリサたちを起こしてしまったかもしれない。
まあ、こんな音を立てて走ってこないってことは起きていない。
もしくは「カイルさんやってるな~」的な感じでスルーされたのだろう。
今の彼女たちなら、それくらいの肝は据わっている。
「さて……」
俺は手のひらをパンと叩き、正面を見据える。
そして、はあと息を吐いた。
相手は無傷だ。
全く、物理耐性を持っている特殊個体ばかりじゃないか。
まあ確かに基本的な攻撃は物理系が多いから、それに特化するのは分かるけども。
これじゃあ俺の個性が消えちまうじゃないか。
ともあれ、別に自分の個性なんざ興味はないが。
『グギギギギギ……』
ケンタウルスは起き上がり、俺の方をじっと見る。
次の瞬間には己の手のひらに大剣を握り、こちらに向けていた。
大きさ、およそ数メートル。
あんな物に当たったら、速攻体は真っ二つだ。
「……面倒くさそうだなぁ」
嘆息しながら、俺は剣を引き抜く。
「自ら剣を生み出すか。人間や魔族ならできるやつはいるが、魔物でできるやつなんて見たことないな」
つまり――特殊能力というわけだ。
相手は特殊能力持ち。面倒だが、仕方がない。
ともあれ分かるだけマシってものだ。
「そっちが剣技で来るなら、俺も剣技で行かないとな」
構え、そして相手を見据える。
あいつと比べると、俺が持っている剣なんて短剣だ。
なんならナイフにも見えるかもしれない。
それほどまでの差がある。
俺の持ってる剣……持つかなぁ。
物理で解決できるようになってから、剣にはこだわらなくなったし。
下手すれば一発で折れちまうかもな。
『グギャァァァ!!!!』
ケンタウルスがこちらにめがけて突進してくる。
その刹那。
俺はふと思いついた。
基本的にだが、大抵の冒険者は簡単なバフ魔法くらいなら扱えることが多い。
もちろん専門の人たちには劣るが、多少は役に立つ。
俺も例外ではない。
こんだけ冒険者をやっているんだ。
簡単なバフ魔法くらいなら扱える。
「ほいっ!」
ケンタウルスの攻撃を地面を滑る形で回避し、剣に手を当てる。
「《耐久強化微少》!」
俺が使えるのは、たったの微少である。
しかしながら、その言い方は間違っているかもしれない。
自分で言うのもなんだが、俺のステータスはバグっている。
一般の冒険者とは違って、比較すると化け物レベルだ。
そんな化け物レベルの『微少』。
普通と比較すれば、微少すらも化け物クラスになる。
「おお……我ながら高耐久なものになった気がするな」
自分の剣をちらりと眺め、くすりと笑う。
良い具合になったかもしれない。
これなら……ワンチャンいけるか。
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛』
こちらに顔を向けるケンタウルス。
剣を構え、すぐに攻撃態勢に入る。
「やってみっか」
大剣VS実質ナイフ(化け物耐久)の対決だ。