64.なんなんだ
「全く……魔物も少しは休んでくれたらいいのにな」
俺はある程度無茶をしても、多少はどうにかなったりする。
そのため、彼女たちには自分より多めに睡眠時間を確保してもらうことにした。
案の定割合があってないと反発されたが、無理矢理言いくるめた。
改めて、長生きした分口だけは達者になったなと思う。
口だけ達者になっても、ってところだが俺はまだそんなオッサンよりかはマシだと思うと言い聞かせている。
なんせ、まだまだ現役なのだ。
口だけのオッサンたちはもう既に現役から退いている。
それはそうと。
「やっぱ夜型の魔物は強めのやつが多いな」
時間は分からない。
ただ、暗くなってそこまで経っていないから十九時や二十時頃な気がする。
日が沈んで間もないというのに、強めの魔物が出現し始めた。
エリサの魔法によって明かりは確保できているが、それでも俺一人じゃ精神的にキツい。
「そい」
まあ……精神的にキツいだけで、基本的にはワンパンなんだけど。
この体には慣れたが、やっぱり誰かと一緒に行動していると自分の体のおかしさがはっきりと分かってくる。
やっぱおかしいよ、魔物をワンパンとか。
ただ、誰かを守れる力を手に入れたという意味ではよかったとは思う。
この力のおかげで、今俺は生きている。
生かされているのだから。
「ああ?」
ふと、茂みに目が行く。
今一瞬、何かが見えた気がしたのだ。
一瞬すぎて、認識する前にどっか行ったけれど。
「なんだったんだ?」
俺は念のため何かが見えた場所まで行き、周辺を観察してみた。
が、特に何も見当たらない。
何か痕跡でもあるんじゃないかと思ったけれど、何もなかった。
「気のせい、か――」
嘆息しようとした瞬間のことだった。
背後から何か、猛烈な熱さが忍び寄ってきたのは。
咄嗟に剣を引き抜き、飛んできた何かを斬り落とす。
久々に剣を使ったなんて思いつつ、俺は武器を構える。
「なんだぁ……あれは」
何かが明滅しているように見えた。
エリサが用意してくれていた明かりから離れてしまっているため、あまり見えない。
森の奥だ。
俺は息を呑み、奥へと進んでいく。
明かりはいよいよ届かなくなってきた。
あるのは、目の前にある明滅する何かのみ。
「これは……」
俺は右手で明滅する何かに触れようとする。
その刹那。
「なっ――」
一気に引き込まれた。
抗おうとするが、気が抜けていたため一気に持って行かれる。
「見つけた」
「は、はあ?」
そんな声が聞こえたかと思うと、明滅する何かが霧散していった。
さながら闇に溶けるようにも見えた。
……なんだったんだ。
今の声、誰なんだ。
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛……』
「ちょっと待てよ!?」
考えようとした瞬間に、隣から攻撃される。
回避行動を取るが、間に合わずに攻撃を喰らってしまう。
別に問題はない。問題はないが。
「ケンタウルスか……珍しい魔物じゃねえかよ」
目の前には強靱な肉体を持った、魔物の姿があった。
「それも特殊個体。そろそろ慣れてきた頃合いだが、こいつと戦うのは初めてだな」
俺は近くにあった大きめの木を持ち、本当に軽くファイアを打ち込む。
めらめらと燃えて来はじめたら、燃え移らないところに投げる。
ここからエリサたちとは多少距離がある。
あまり時間をかけていると、エリサたちに万が一のことがあったらダメだ。
「速攻、だな」
ぐっと拳を握り、目の前のケンタウルスを見据える。
「力比べだ。木偶の坊」
少し期間が空いてしまいましたが更新!楽しんでいただけたら嬉しいです!