62.仕事
「え? ということは、御者さん、私たちのせいで」
「わたしたちが……」
「エリサ。ユイ。俺たちができることはたった一つだけだ」
動揺し始めている二人の気配を察する。
ダメだ。ここで精神を持って行かれたら、全てが破壊される。
ヴォルガンが設置した罠に、見事ハマって俺たちは泥沼状態になってしまう。
だから俺は二人に声をかける。
「何度も言っていると思うが、これは遊びじゃない。楽しみながら、ワクワクしながら、そんな仕事じゃないんだ」
冒険者という職業はキラキラとして見える。
特に、彼女たちにとって冒険者というものはキラキラとして見えていたことだろう。
覚悟をしていた、と聞いている。
それはもちろん俺は信用している。
けれど、彼女たちは未熟な部分が多い。
なんせ、最近まで冒険者ランクは低かった。
勇者を目指していると聞いていたが、『勇者がどんな仕事をしているか』なんて知らないだろう。
だって、冒険者のトップ。それが勇者だ。
多分彼女たちは想像しきれていないのだろう。
勇者の仕事というものを。
人が死ぬなんてことは、よくあることなんだ。
だから。
「人が死ぬ。仲間が死ぬ。そんなことが起こった時、俺たちができることはな」
俺は彼女たちの肩を叩く。
「彼らの意思を継ぐことだ。だから、ここで止まるわけにはいかない」
意思を継ぎ、そして成し遂げる。
これが俺たちにできる、ただ一つのことなのだ。
「……うん。分かったよ」
「分かりました。御者さんの敵は絶対に取ります」
「大丈夫そうだな。よし」
俺だって、正直心臓はバクバクしている。
こんな仕事なんて、一切したことがない。
下手をしなくても、国家を背負うような仕事なんて。
でも俺が緊張して、ダメダメになったら誰が彼女たちを引っ張るんだ。
オッサンは歳を食っている分、引っ張ってやらなきゃいけないんだ。
「エネル草原には入れたわけだ。問題は地下洞窟へ向かうわけだが」
俺はこめかみを押さえて、嘆息する。
「地図は……持って行かれたな。だいたいの道は覚えているが……」
若干不安な側面もあるのは事実だ。
こういう時こそ、正確な情報に頼りたくなるのは人間の性だろう。
それは俺だって同じだ。
正確な情報がないと、不安にはなる。
「あの……わたし、ええと」
「どうしたユイ?」
「こういう時は自信を持つべきですよね。わたし、地図の内容は全部覚えています」
「マジで!?」
「……マジか」
俺とエリサは思わず驚いてしまう。
確かユイはリリット村に向かう時も案内を担当していたか。
「わたし、記憶力には自信があるんです。観るのが得意というべきでしょうか」
なるほど。
たまに観るのが極めて得意な人間がいる。
俺も生きてて数回見たことがあったが、まさかユイがそのタイプだったとは。
しかし、ありがたいことだ。
「すまないが案内、頼めるか。俺もユイには劣るかもしれないが、ある程度覚えているから補助くらいはできるはずだ」
「はい。任せてください」