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60.すごいところまで来た

「私たち……いよいよすごいところまで来ちゃったね」


 エネル草原へと向かう馬車内にて、エリサはぼそりと呟いた。


 ガタガタと室内は揺れている。


 同時に、彼女も肩を揺らせながら不思議そうな表情を浮かべていた。


「来ましたね。これ、実質世界の命運を託されてますよね?」


「だよね。だって、全ての元凶を倒しに行くんだよ」


「……エリサが言うように、来るところまで来たって感じがします」


 二人は、どこか不安そうな面持ちをしていた。


 やはり彼女たちにとっては厳しいものなのだろう。


 ……俺にとってもかなり厳しいものなのだが。


 オッサンも正直、緊張というか嫌な汗がさっきから止まらない。


 歳を重ねるにつれて、こういうのには弱くなってしまった。


 全く、体はユニークスキルで人間を逸脱してるのにな。


 俺はふうと息を吐いて、エリサたちを見る。


「怖いか?」


 そして、尋ねてみた。


 必要のない質問だったかもしれないが、俺は聞いておくべきだと思ったのだ。


 宮廷に向かう途中にも似た質問をしたが、何度でもしておくべきことだと思う。


 改めて。

 

 ここから先は覚悟がいる。


 それ相応の覚悟を持っていないと、きっと死んでしまう。


 俺は……できている。


 ヴォルガンを倒す覚悟も――死ぬ覚悟も。


 俺の質問に、エリサたちは深く頷いた。


「もう! 私たちのことを試そうとしてるでしょ!」


「何回聞いたって、答えは同じですよ!」


 そう言って、エリサとユイが拳を握る。


「覚悟はできてる! 絶対ぶっ倒す!」


「当たり前です! これくらい余裕ですよ!」


「……お前ら」


 俺は自分の心の底からあふれ出す喜びを耐えるのに必死だった。


 しかしながら、耐えることはできずに思わずニヤニヤしてしまう。


「最高だ。二人とも」


 やっぱり若い子たちはいいな!


 こういう死ぬかもしれないところでも、恐怖なんてせずに進むことができる。


 これ系は歳を重ねるごとにできなくなるものだ。


 怖くて怖くて仕方なくなる。


 俺はそういう人間を数多く見てきた。


 だからこそ、彼女たちの答えが最高に思えた。


 若さは最高の味方だ。


「俺たちで――ヴォルガンをぶっ倒そう!」


「いえい!」


「やってやりましょう!」


 俺たちは拳を掲げ、一斉に声を上げる。


 絶対に負けない。


 というか、負ける気がしない。


「絶対……倒すからな」


 俺は一呼吸置いて、自分に言い聞かせた。


 その瞬間のことだ。


「うお!?」


「きゃ!?」


「ななぁ!?」


 馬車が急ブレーキを踏んだ。


 俺たちは絶賛立ちっぱだったこともあって、思い切り前の壁にぶつかってしまう。


 体を打ち付けてしまい、苦しみながらも状況を確認すべく立ち上がる。


「二人は大丈夫か?」


「……全然大丈夫! 怪我とかはしてない!」


「わたしもです!」


「よかった」


 そう言って、俺は小窓を開けて御者さんに声をかける。


「何が起きたんです!?」


 叫ぶと、御者さんが慌てた様子で答えた。


「と、突然デスバードの群れが現れたんだ……! 最初から居たとかじゃなくて……本当に突然現れた!」


「……どういうこった?」


 俺は頭を悩ませるが、ひとまずは魔物の討伐をしなければならない。


 デスバードは少なくともBランククラス。

 

 それが群れでいるとなると、かなりの難易度になってくるだろう。


「エリサ、ユイ。戦闘だ!」


「おう!」


「はい!」

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