6.俺に直接?
「こちら、報酬金になります! それとおまけで魔族を追い払ってくれた分も足しておきますね!」
「色々と壊しちゃったのに、なんかすみません……」
「いいんですよ! 魔族を追い払った事実は変わらないんですから!」
俺は頭をかきながら、報酬金を受け取る。
なんだか申し訳ないなぁ。
「んで、ほい」
そして、お金が入った麻袋をエリサたちに投げ渡す。
「わわ! え、もらっていいの!?」
「いいんですか!?」
「二人は仲間なんだ。遠慮しないでくれ」
「で、でもカイルの分はそれだけでいいの?」
エリサが俺の手のひらにある一枚のお金を見て、不思議そうに尋ねてきた。
「いいんだよ。オッサンは無駄に蓄えがあるんだ。こういうのは若者に還元していかないとな」
「やったー!」
「ありがとうございます!」
俺はそう言いながら、カウンターに体重を預ける。
にしても、俺は本当に人間を逸脱してしまったんだな。
昔じゃ、魔族を一撃で撃退するなんてできなかっただろうし。
病院では問題ないって言われたけど、たまには顔出して診察してもらった方がいいかもしれない。
正直行くのは嫌だけど、万が一のことがあったら困る。
昔は行かない言い訳なんていくらでも作れたけど……。
「お金いっぱい!」
「今日のご飯を何にしますか!?」
仲間ができちまったしな。
何かあって悲しませたら、仲間として失格だ。
本当、病院は嫌だけど。
「あ、そういえば」
俺が病院のことを考えながら嘆息していると、受付嬢さんが肩を叩いてくる。
振り返ってみれば、なにやら依頼書を見ているようだった。
「カイル様宛てに依頼が届いていましたよ。貴族様から」
「貴族さんが? 俺にですか?」
「ですです。さすがはカイル様ですね。貴族様にも注目されているようですよ」
俺を指名して依頼をしてくる人なんて初めてだ。
俺も有名になったんだな。
あんまいい気はしないけど、今は仲間もいるしそっちの方がいいか。
「貴族! マジマジ!?」
「本当ですか!?」
エリサとユイが間に入ってきて、依頼書を眺める。
「伯爵からじゃん!」
「報酬金もすごいですよこれ!」
ふむ。まあさすがは貴族だけあって報酬は大金だ。
にしても……討伐対象がワームか。
これまた面倒くさい相手が現れたものだな。
あいつは山をえぐったりするし、巨大だし。
色々と厄介なんだよな。
「そして『英雄の証』たちにとっては朗報です。今回の依頼を達成したらBランク昇格も当ギルドで検討しております!」
「え!? マジ!?」
「えええ! いいんですか!?」
「はい! さすがに貴族様の依頼を達成したパーティをCランクのままにしておくというのは、ギルドとしてもどうかと思いまして!」
「よっしゃー!」
「チャンス到来ですね!」
俺は盛り上がっている二人の肩を嘆息しながら叩く。
全く、若いなぁ。
「まだ達成したわけじゃないんだぞ。喜んでどうする」
あくまで検討だってのに、喜ぶには早すぎる。
「それに、オッサンとしても急にパーティランクが上がるのは不安だ。俺に任せっきりじゃなくて、二人にも戦ってもらうからな」
「わ、分かった!」
「は、はい!」
「分かってるならオーケーだ」
俺は二人の背中を叩き、ぐっと伸びをする。
「で、領地はここからどれくらいなんです? 伯爵ともなれば、自分の領地は持っているでしょ」
「そうですね。ここから馬車で二日程度のリエトン伯爵領になります!」
「二日か。となると、どっかで寄り道することになるか」
俺だけなら馬車で過ごしてもいいが、女の子二人いるし。
どっか宿で宿泊するか。
「お金ってどれくらい持ってる?」
「ええと……今回受け取ったもので全部」
「お金は明日に持ち越さない主義でして……」
「全く……本当に若いな……」
貯金くらいはするものだと思っていたが、まさかゼロだなんて。
まあ、経済を回すのは良いことだけどよぉ。
「しゃーねえ。宿代と飯代は俺が奢る。その代わり、しっかり働いてくれよ」
「もちろん! 全力でやらせていただきます!」
「ます!」
「返事がいいのはいいことだ」
俺はそう言って、受付嬢さんの方を見る。
「馬車は手配してくれますか?」
「受けてくれると思っていましたから、既に準備しておりますよ! ギルド前で待機してるかと」
「……俺が万が一受けなかったらどうするつもりだったんですか」
「その時はその時です!」
「まあ信用してくれてるのはありがたいけど」
俺はそう言って、扉の方へと歩く。
「それじゃあ二人とも、早速張り切っていくぞ」
「おおう!」
「やったりましょう!」
「はは。元気でいいこった」
俺が返事をすると、二人は前に出る。
そして、こちらに振り返って。
「それじゃあー!」
二人が腕を掲げ、
「「しゅっぱーつ!」」
「しゅ、しゅっぱーつ……」
三十のオッサンには、やっぱり若者のノリはキツイな……。