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59.真の敵

「お主たちが来るのを、我はずっと待っていた」


「光栄です……といっても、事が事ですからね」


 これまで発生していた魔族からの攻撃、その根源が発覚したのである。


 それはもう大事だ。


 まあ、国王様は大事を隠すといった判断をしたわけだけれど。


 しかしながら、隠すといった判断をするということは俺たちのことを強く信頼していてのことだ。


 失敗なんてありえない。


 そう踏んだ上での作戦である。


 とはいえ、こんなことを伝えたらエリサたちがビビるだろうから伝えてはいないが。


「ああ。まさか全ての事件、事故が一人の魔王軍幹部に集約していたとはな……驚いた」


 国王様は唸る。


 俺も実際、まさか一人の魔族によって行われていたことだと知った時は驚いた。


 あんな大きなことを。


 国家すらも脅威だと認識させるレベルのことを一人でやっていたなんて。


 どうも現実味がない。


 しかしながら、これが現実で起こっているのである。


 ヴォルガンが何者かは知らないが、すぐさま対応しなければならない。


「まずはお主たちが真の敵を見つけたこと、感謝したい」


 そう言って、国王様は深々と頭を下げる。


「いやいや! 頭は下げなくて大丈夫ですから!」


 俺は慌てて声を上げて、国王様を止める。


 こんな平民にも頭を下げてくれる国王様ってのは貴重だと思うが、だからと言って恐縮してしまう。


 それに、確かに俺が見つけたことかもしれないが、別にそうは思っていない。


 ただ俺は彼女の想いを受け取っただけなのである。


 彼女――イリエさんの――イリエとして一瞬でも生きた魔族からの想いを受け取っただけなのだ。


 彼女がいなければ、ここまでたどり着くのは不可能だっただろう。


「話を戻そう。ヴォルガン。我々の方で機密に調査をしたが、正直言って全く成果は得られなかった」


 国王様はこめかみを押さえて、首を横に振る。


「我が国が持つ、最高の諜報機関を動かしてだ。これに関して言えば、悲惨な結果と言える」


 国家が保有する諜報機関が動いていたのか……。


 事が事だから、当然ではあるが……若干驚いてしまう。


 しかし、そんな機関が動いて何も情報が得られなかったか。


「魔王軍幹部だと言うのに、成果が得られなかったというのは相当なことでは?」


 尋ねると、国王様は深く頷く。


「そうだ。我々はただの魔族は調べたわけではない。魔王軍幹部を調べたのだ。だが……参考になりそうな情報を得られなかった」


「参考になりそうな……というと、一応は何か情報は手に入ったのですか?」


「手に入った。だが」


 そう言って、国王様は言う。


「彼――ヴォルガンがごく平凡な魔族だったという情報しか得られなかったのだ」


 魔王軍幹部クラスの魔族が、ごく平凡だって?


 そんなのありえるのか?


 普通は多少なりとも、魔王軍の中で重要な役割を任されているはずだ。


 なのに、国家が下した判断は『平凡』だということ。


 信じられない。


「確かに魔族の中では優秀な方だったようだ。幹部クラスに成り上がれるほどには。しかし、ただそれだけだった」


「本当……ですか?」


「ああ。彼は幹部になっても、特別なことを任されているわけではなかった。多少なりとも戦える、言い方は悪いが器用貧乏だったから幹部としての地位を得たという見解だ」


「おかしくない? それじゃあ、少し……というか私たちが知っている情報とはめちゃくちゃ違う気がするんだけど」


「はい……かなり乖離があるように感じます」


 俺もそうだった。


 最初得た情報とは、到底近いものではない。


 俺たちが想像していたヴォルガンとは、一八〇度違う。


「ただ、一つだけ。ある日突然ヴォルガンは姿をくらませたようだ。それがいつかは分かっていないが、今ある情報的にここからヴォルガンが動き出したのだろう」


「なるほど……全く情報がないですね。属性だとか、武器だとか。そういった情報が全く出てこないって、逆に不気味ですよ」


「分かっている。それが不気味なところなのだ。……カイルよ。我はお主を強く信頼している」


 国王様は静かに語る。


「何も情報がない今、相手は何をしてくるかが分からない。死ぬ可能性も大いにある」


「…………はい」


「改めて、任されてくれるか」


「もちろんです。俺は、約束しましたから」


 国王様からの問に、力強く頷いた。


「ふふふ。頼もしいですねぇ。カイルさん、格好いいですよぉ。キスしてあげましょうか?」


「……大丈夫です」


「冗談ですよぉ。私もこう見えて人間ですので、多少なりとも空気は読みます~」


 本当に読めているのだろうか。


 いや、読めてはいるのだろうが……面白いからそのような行動を取っているように思える。


 ルルーシャさん、本当に掴めない人だ。


「むむ」


「むむむ」


 エリサたちは不機嫌な感じだし。


「カイルたちよ。お主たちを信頼して、命令する」


 俺たちは顔を上げて、国王様を見据える。


「エネル草原、地下洞窟へ向かい――我々の真の敵であるヴォルガンを討伐せよ!」


「「「はい!」」」


 俺たちは胸に手を当てて、声を大にして叫んだ。

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