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57.またな

「……んん。頭、痛い……」


「くらくら、します……」


 ぼうっとリビングのソファに倒れていた二人を眺めていると、やっと目を覚ましたようだ。


 頭を押さえながら、ふらふらと体を起こす。


「おはよう。二人とも」


 俺は近くの椅子から、彼女たちを眺めていた。


 どれくらい眺めていただろうか。


 一時間、二時間は待ったかもしれない。


 無理矢理起こしてもよかったが、さすがに負担が大きいだろうとやめたのだ。


 二人はだいぶ意識がはっきりしたのか、お互いの顔を見つめ合った後、俺の方に振り向く。


「魔族は!?」


「魔族はどうなったんですか!?」


 ……ああそうか。


 彼女たちは魔族が誰か発覚する前に気絶していたから、何も知らないのか。


「魔族はカイルくんが倒したよ! いやはや、見事な大勝利だったのに見られなかっただなんてもったいないなぁ!」


「アルマ……」


 俺が嘆息しながら言うと、アルマは「これでいいんだよ」と耳打ちしてくる。


 半ば呆れながら頭をかき、俺はこくりと頷いた。


「魔族はもう大丈夫。俺が倒したよ」


 そう言うと、二人は安心した様子で目を輝かせた。


「本当!? すごすぎるよ! さっすがはカイル!」


「カイルさん! さすがです!」


 エリサたちは立ち上がって、お互い大喜びでハイタッチを交わしている。


「あ! 魔族からは村長さんの居場所、聞けました?」


「そうそう! 娘さんが悲しんじゃう!」


「ああ……それはな」


 少し言い淀んでしまう。


 なんて伝えようか悩んだけれど、俺は結局濁すことにした。


「お前らが寝ている間に、村長さんも救出して娘さんとも合流できたよ。二人は無事、会えた」


 そう言うと、エリサたちは満面の笑みで何度も頷く。


「よかった! 村長さんも、娘さんもきっと不安だったり寂しかったりしただろうから、安心できたかなぁ」


「私たちが気絶している寝ている間に色々あったんですね――というか、なんで私たち寝てたんですかね?」


「魔族からの不意打ちで、お前ら一瞬で気絶してたぞ」


「そうだったの!?」


「マジですか!?」


 二人は驚愕しながら、ガクガクと肩を震わせる。


 嘘は……言っていない。


 事実だ。


「君たち、一瞬でノックアウトされていたよ! 滑稽だったね!」


「はぁ!? なんですかアルマさん!」


「さっきから、私たちのことからかってない!?」


「さぁ。どうだろうね!」


「いや、お前は明らかに悪意を持って言ってるわ。アウト」


 俺が言うと、アルマは苦笑しながら肩をすくめる。


「すまないね! 僕はその場を盛り上げるのが得意なんだよね!」


「盛り下がってます!」


「だよ!」


「ええ! そこまで言わなくてもいいじゃないか! 全く、仕方ないね」


 アルマは椅子から立ち上がり、俺の方に歩いてくる。


 くるりと振り返って。


「それじゃあ邪魔らしいから、僕は外で待ってるよ! なんて優しいのだろうか僕は! 今日も素晴らしいなぁ!」


 そして、俺の横を通りすぎようとした瞬間に。


「大変だろうけど、頑張ってね」


「……ああ」


 そう言って、彼は村長宅の外へと出て行った。


 俺は息を吐いた後、彼女たちの方を見る。


「ところで、イリエさんはどこに行ったの?」


「そういえばそうですね。どこ行ったんです? それに村長さんや娘さんは?」


「ああ……それはな」


 なんて言おうか悩んだ。


 笑顔を作ってはいるが、多分かなり引きつっている。


 俺は三十年も生きてきたが、こんなのは苦手なんだ。


 大人って言うのは、嘘が得意だとか言うけれど俺は苦手だ。


 多分、まだ大人にはなりきれていないのだろう。


 オッサンだってのに、恥ずかしい限りだ。


「三人は村人たちに挨拶周りでもしているんじゃないかな。用事があるって行って、家を出て行ったよ」


「そうですか!」


「なるほどね!」


 二人は納得したようで、満足そうにしていた。


 俺は相変わらず、嘘は苦手なようだ。


「俺たちの任務は終わりだ。イリエさんたちには、俺からもう伝えてあるから挨拶はしなくていい。さっさと帰るぞ」


「ええ! もう帰るの!?」


「まあまあ。ずっと居座っても迷惑ですしね」


「そうだ。見た感じ、お前ら元気そうだから俺の世話がなくても普通に歩けるな?」


「大丈夫!」


「問題ないです!」


「よし」


 そうして、俺たちは村長宅の玄関まで向かう。


 相変わらず猟銃が多い。


 ぼうっと部屋を眺めていると、ふと倒れている写真立てを見つけた。


 反射的に手を伸ばす。


「……」


 そこには、イリエさんと村長が笑顔で写っていた。


 とても素敵な写真だった。


「何見てるんです?」


「なんかあったの?」


「いや、なんでもない」


 俺は何事もないように、そっと写真立てを戻した。


 今度は、部屋を見渡せるよう表向きに。


「やっと出てきたかい! 見てごらん! 外は快晴! とってもいい天気だ!」


 外に出ると、アルマが満面の笑みで立っていた。


 さっきまで大雨だったのに、嘘みたいに空が晴れている。


 透き通った雲一つない快晴だ。


 雨上がりのいい香りが、俺の鼻をくすぐる。


「帰るのかい?」


「ああ。俺たちの任務は終わりだ」


「そうか。改めて、ありがとう」


 アルマは深々と頭を下げた。


「……村は」


 言いかけた瞬間、アルマはぱっと顔を上げる。


「お嬢様方! ちょっと僕たちは大人な会話をするから、先に村の門まで向かっていてくれ! 馬車を用意してあるから、なんなら先に乗って待っていてくれ!」


「……だそうだ! お前ら、ちゃんと待てるな?」


 煽るように言うと、二人は頬を膨らませて。


「待てるよ!」


「待てます! エリサさん、行きましょう!」


 言いながら、二人は村の中を歩いて行く。


 アルマと二人だけになった。


「村の件だね」


「ああ。どうなるんだ」


 この村には、村長はもういない。


 家屋も正直、壊滅状態とも言える。


 しかもこんな辺境の村を復興しようだなんて、なかなか難しい話である。


「多分、この村は静かに終焉を迎える。でも安心してほしい。僕が生き残っている村人全員を、安全な街や村に案内するよ」


 言って、アルマはポーズを取る。


「なんたって、僕は案内役だからね!」


「安心するよ。お前を見ていると」


「そう言ってくれると嬉しいよ!」


 俺は踵を返し、ちらりと後ろを見る。


「んじゃ、俺は王都に戻る。……また、会えるよな?」


「会えるよ。約束だ、英雄(ヒーロー)くん」


「恥ずかしいからやめてくれ。俺は別にそんな大層なものじゃない」


「あれ? 確かギアンという幹部を倒した際に、『英雄(ヒーロー)になる』って宣言したと聞いたんだけどなぁ」


「おい! それどっから漏れた!?」


「さぁ! 知らなーい!」


 俺はアルマに慌てて尋ねるが、彼は答えてくれなかった。


 まあいいか。


 確かに俺は言った。


 そして、あの時決心した。


 追放されて早十年。


 齢三十にして、俺は今更『英雄(ヒーロー)」になるって。


 今回の件を通して改めて決心した。


 絶対に、なると。


「……それじゃあ、またな」


 俺が手を挙げると、アルマもそれに倣う。


「ああ! また会おう!」


 空は快晴だ。


 少しばかり暑くて、けれども風が心地いいとても良い日だ。


 ゆっくりと終焉を迎える村。


 けれど、アルマがいるから大丈夫だ。


 俺は、彼を信用している。


「全く、オッサンって生き物は俺が想像していた以上に大変だな」


 そんなことを思いながら、俺は少し頬を緩ませた。

これにて、第五章完結になります!すごく楽しく書かせていただきました!これも応援してくださる読者の皆様のおかげです!


物語の中では、少し不思議な五章だったのではないのでしょうか?


さてさて。


本作は更に前へと進んでいきます!次章はヴォルガン討伐編!物語にとって、大きな転換点に入ってきます!そんなオッサンの物語を、これからも応援していただけると嬉しいです!


五章完結ということで、よければ!

【広告下の☆☆☆☆☆をタップして★★★★★に染めて応援していただけると嬉しいです!】


お祝いと期待を込めて、評価で反応いただけると嬉しいです!執筆するモチベに繋がりますので、何卒よろしくお願いいたします!


それでは、引き続き応援していただけると嬉しいです!

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