54.すべきこと
「……ちが。私は魔族じゃ」
彼は否定しようとするが、明らかな証拠として角が生えていた。
どうにかして角を隠そうとしているが、角は消えない。
「嘘だよな? お前、何かの間違いだよな?」
「違う……これは……違う……!」
「カイルくん。残念だが、彼女は魔族だ。そして、同時に村長さんの娘だよ」
「……は? 何言ってんだよアルマ。彼は行方不明になっている村長さんの代わりを任された少年で」
「違うよ。彼女は正真正銘、村長さんの娘だ。なんせ、この村に住んでいる僕が言っているのだから間違いない」
どういうことだよ。
イリエさんが、村長さんの娘?
「意味が分かんねえよ」
何がどういう意味なのか分からなかった。
状況が理解できず、俺はただ固まるばかりである。
「そもそも、イリエさんが村長の娘って。俺が何度も男だって言ってたけど、イリエさんは何も言わなかったぞ?」
「恐らく、魔族になった影響で自分の性がよく分からなくなっていたのだろう」
魔族に『なった』って。
なんだよそれ。
本当にどういうことだよ。
「いいかいカイルくん。まずは彼女を行動不能にしよう。多分、彼女からは情報を聞き出せる」
「ええ? つまり、どういうことだよ?」
「攻撃するんだ。カイルくん」
アルマは冷静に答える。
攻撃って。
だってイリエさんは人間で……人間じゃないのか?
確かにイリエさんの額に生えているのは角だ。
魔族が持つ、特有のものだ。
イリエさんが男じゃないってことは理解できた。
でも、彼女が魔族だなんて。
俺は信じることができない。
「何かの間違いなんじゃ――」
そう言おうとした刹那、俺の体に衝撃が走る。
吹き飛ばされ、壁に思い切り激突した。
「……っ!?」
驚いてしまう。
あまりにも突然の攻撃だった。
しかし、ダメージはあまりない。
相変わらず俺の体は人間を逸脱している。
でも――そんなことはどうだっていい。
「イリエ……さん?」
「ちが。どうし、て。どうして攻撃、してるの」
イリエさんは俺に手のひらを向けていた。
手のひらには、どす黒い魔力の球が浮かんできた。
あれを俺に放ってきたのだろう。
普通の人間ならば、できないことだ。
『カイルさん。落ち着いて聞いて――』
――バゴォォォォォン!!
クソ医者の声が聞こえたかと思うと、どす黒い球体が俺の真上を通過した。
轟音が響き、家が揺れる。
後ろを見てみると、クソ医者と繋がっていた魔道具が破壊されていた。
「ち、ちがう。なに、これ」
「カイルくん。落ち着いてくれ」
「アルマ……?」
「相手を行動不能にしてくれ。心は痛むと思うが、このままでは僕も君の仲間も。村も全員が死ぬ」
「ええ?」
「冷静に考えてくれ。柔軟に考えてくれ。君は今、何をすべきかを」
「俺が……今するべきこと」
俺は、今何をするべきなのか。
分からない。
何が正解なのかは分からない。
けれど。
「そうだよな……まずは、止めないとな」
詳しい話は後だ。
まずは彼女の暴走を止める。
それが俺の役割だ。
「イリエさん。俺が今、お前を止める」