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53.お前だったのか?

「それにしても、雨すごいねー! これはリリット村観測史上初レベルの雨だろう!」


 アルマは外に出ると、はしゃぎながらくるりと回る。


 そして、俺の方に向いて一言。


「行こうか。村長さんの家に」


「……分かった」


 俺はどうも、彼の態度がよく分からなかった。


 態度もそうだし、精神もそうだ。


 魔族がこの村のどこかにいるってのに、どうしてこうも飄々としているのだろうか。


 いや、それこそが彼らしいとも言えるのかもしれないが。


 ダメだな。


 俺は長く生きすぎて見慣れないものを理解しようとしなくなっている。


 悪い方向に歳を取ってしまっているようだ。


「ところで、王都からここまで来るの大変だったでしょ! 遠いもんねぇ! ね、お嬢さん方?」


「めちゃくちゃ遠かったわ。まあ、みんなのことを思うと平気だった」


「そうですね。人が死ぬのは、嫌なことです。もし家族の誰かが死んじゃったら悲しいです。それが実際に起こっているとなると、苦ではありません」


「いいことをいうねお嬢さん方! 君たちは英雄(ヒーロー)の素質があると思うよ!」


 笑いながら、アルマは歩く。


 俺たちも彼に並びながら、村長宅へと向かっていた。


 しかし、彼は何でも知っている。


 この村のことなら、何でも知っているような気がする。


 彼が何者なのかは知らない。


 聞いたところで、彼は案内役としか答えないだろう。


 もしくはツアーガイドか。


 まあ、深読みしたところできっと彼の飄々とした態度が不可思議に見せているだけで、彼は普通の人間なのだろう。


「しかし、早かったね!」


「ん? 何がだ?」


 急に聞いてきたので、俺は思わず変な声を出してしまう。


 彼は目の前にある村長宅の扉に手をかけながら答える。


「連絡してから、ここに来るまでだよ!」


 村長宅の扉が開いた。


 カギは掛かっていなかったようだ。


 全く……危ないのに不用心だな。


 っていうか、勝手に開けるなっつうの。


 半ば嘆息しながら、俺は声を出す。


「イリエさん! 戻った! ちょっと魔道具借りるぞ!」


 返事がないので、少し躊躇していると通路からちらりと顔を出してこちらを覗いてきた。


 俺は手を振ると、イリエさんはゆっくりと歩く。


「やぁ! 静かだね!」


「……ようこそ」


 陽気なアルマと静かなイリエ。


 対照的な存在で、思わず変な笑いが出た。


 こんなにも真反対な性格だと、仲良くなんてできないだろうな。


 とはいえ、アルマはアルマで気にせず話かけていそうだけれど。


「んじゃ、借りるぞ!」


 俺は手を振りながら魔道具があるところまで歩き、ふうと息を吐く。


 アルマは相変わらずニコニコとしていて、あまり心が読めない。


「た、試そう!」


「やってみましょう!」


「ああ。この村のためだ」


 魔道具に触れて、クソ医者を想像する。


 瞬間、パッとクソ医者につながった。


『はいはい。おまたせしました』


「早速だけど、確実な情報が手に入った。改めて、クソ医者の能力を借りたい」


『もちろん構いませんよ。にしても、面白い方を連れてますね」


「やぁ! 久しぶりだね!」


「やっぱり二人は知り合いなのか?」


『ええ。まあ私の情報網の中に、彼は入っていますよ』


 そう言いながら、クソ医者は何かの資料を眺める。


 まあいい。


 早く試そう。


「その話は後で。クソ医者、今から俺が話す情報をしっかり聞いてくれ」


『はいはい。いつでも構いませんよ』


「『リリット村内部』『時計台を破壊し、人を殺した魔族』」


 答えると、クソ医者はふむと頷く。


 静寂。


 静けさが辺りを包み込み、どこか緊張感が走った。


「で、どうなったんだ?」


『分かりましたよ。魔族がどこにいるのか』


「マジか! 教えてくれ!」


 俺は魔道具本体を掴み、ぐっと顔を近づける。


 早く教えてほしい。


 今すぐに対応して、村長さんや娘さん。全ての人達を助けたい。


『カイルさん。あなたのステータスは人間を逸脱しています』


「は……? 急にどうしたんだよ」


 突然、クソ医者が全く関係のない俺のステータスの話をしだしたので困惑してしまう。


 それがどうしたんだ。


 別に今話す内容でもないだろう。


『全てのステータスが化け物クラスです。つまり、多少の攻撃なら防ぐことができるわけです』


「カイルくん。後ろを見てくれ」


「え?」


 俺はアルマに言われるがまま、反射的に背後を顧みた。


「エリサ!? ユイ!?」


 まず気がついたこと。


 エリサとユイの姿がなかった。


 さっきまで後ろにいたはずなのに。


 どこにいるのか探そうとするが、アルマに止められる。


「カイルくん」


 アルマはそっと指を挙げ、まっすぐ一人を差す。


「一人の少女が見えるかね?」


「え……? 何を言っているんだ?」


 俺は理解ができなかった。


 アルマは一体、誰に向かって少女と言っているんだ。


 少女なんて、エリサとユイ以外にいないじゃないか。


 だって、今アルマが指を差している方向にいるのは――


「イリエさんしかいないじゃないか……?」


『カイルさん。ひとまず安心してください。エリサさんとユイさんは無事です。ここからじゃ見えませんが、リビングのソファで気を失っていますよ』


 だから。


 どういうことなんだよ。


『さて、カイルさん。私のスキルによって、魔族の居場所が分かりました』


 状況が理解できない。


『魔族は、あなたの目の前にいます』


「イリエ……さん?」


 俺は声をどうにか出す。


 イリエさんは少し俯いた後、静かに顔を上げた。


 イリエさんの額には、一つの歪な角が生まれていた。


「魔族は……お前だったのか?」

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