51.アルマ
「いやはや! よく来てくれたよ! 最悪な状況下だろう! ははは!」
「ははは……」
家に上げてもらったはいいものの、この青年は一体何者なのだろうか。
やけに元気がいい。
というか、無駄にテンションが高い。
こんな状況じゃあ、テンションなんて下がってばかりだろうに。
俺は半ば胡散臭い者を見る目で眺めていると、青年は肩を叩いてくる。
「君がカイルくんだね! 僕はアルマ! この村の愉快な案内役さ!」
ニコッと満面の笑みを向けてくる。
それはもう百点の笑顔だ。
「……胡散臭いね」
「詐欺の臭いがします」
しかし俺たちの感想と言うのはこんなところで、なんて言うか胡散臭い。
案内役ってのもよく分からないし。
……思い出す過去の思い出。
昔、よく知らない知人に急に呼び出されたかと思えば、変な勧誘だったなぁ。
あいつもこんな感じのテンションで話しかけてきたっけ。
誰でも金持ちになれるつってたのに、あいつは安い喫茶店に呼び出した上に割り勘だったなぁ。
「君たち! まさかあ僕を胡散臭い案内役かと思っていないかい?」
「「「思ってます」」」
「ふふふ! 確かに胡散臭いかもしれないけど、ここは信じてほしいな! 僕は決して一切儲からない商材を紹介したり、資産運用の方法を伝授したりはしない! あくまで、この村の案内役だからだ!」
そう言いながら、青年はウィンクをしてみせる。
「質問がある人は手を挙げてくれ!」
というわけなので、俺は手を挙げることにした。
ここは一番先輩である俺が先陣を切るべきだ。
「……そもそも案内役ってなんですか?」
「いい質問だねカイルくん! ただ年齢を重ねただけじゃないらしい!」
なんだこいつ。
ぶっころがしてやろうか。
俺は今更覚醒した【晩成】の能力を遠慮せず発揮しそうになるところを、どうにか堪える。
「僕は観光客に村のことについて解説しながら案内する商売をしている! つまりツアーガイドといったところだろうか!」
「あーなるほど。大体理解した」
「敬語じゃなくなったね! しかしそれが正解だよ! 僕に敬語を使う必要はない! 僕は自分より年齢が高い人間はしっかり敬うようにしているからね!」
「……色々と言いたいことはあるが、まあいいや。それで、俺たちは――」
「情報が欲しいんだろう? さっきの話はこそこそっと聞かせていただいた!」
なんだこいつは。
まあいい。
それなら話が早い。
「ええと。それじゃあお前が持っている情報を聞かせてくれないか」
「いいとも! 僕はきっと、君が欲しい情報のほとんどを知っている! 責任は取らないがね!」
やはり胡散臭い。
しかしながら、情報というのは喉から手が出るほど欲しいのも事実だ。
「魔族は一体、どこで消えたんだ?」
俺が尋ねると、アルマはにこりと笑う。
「答えは知っているよ! ただ、その前に少し村の解説でもしようじゃないか! なんたって、僕はこの村の案内役なのだからね!」
「は、はぁ」
「お三方、さぁさぁ座ってくれ! 少し長話になるからね! まあすぐに聞き入ってしまって、体感としては一瞬だよ!」
そう言いながら、アルマは椅子を用意してくれる。
俺は少々悩みながらも、用意された椅子に座る。
彼のことだから、椅子に何か罠でも設置しているかもしれないと思ったが普通の椅子だった。
少しばかり疑いすぎたかもしれない。
息を整えて、正面にいる胡散臭い青年を眺める。
「長話にはなるけどね、ただ、一つこの村が持つ、特別な話をご紹介いたします」
アルマはそっと礼をしたかと思うと、静かに語った。
急に雰囲気が変わったもので、驚いてしまう。
「この村はごく普通の村です。それはもう平和で、辺境で、田舎で、何をするにも多少の不自由が生じる村です」
そう言いながら、アルマは指を立てる。
「しかしながら、この村には他の街や村には負けない物があります。いや、あったというのが今は正しいですかね。それでは、そこの胸の大きな女性の方! 答えてください!」
「わたし……ですかね!?」
「いえ、あなたじゃない方です!」
「わ、私?」
泣きそうになりながら、床を見つめるユイ。
お前……なんで胸の大きな人で反応したんだよ……!
失礼かもしれないが……お前とエリサの大きさは誰が見たって……!!
「負けない物……時計台とか、かな? ユイが持ってた地図に、そんなことが書かれていた気がする」
言うと、アルマは何度か頷く。
「ご名答! その通り! この村の名物は時計台だ!」
アルマは手を叩きながら笑顔を作る。
相変わらずこの人は胡散臭い。
ただ、間違ったことを言うような人ではなさそうだ。
「その前にいいか? 魔族とその時計台が何の関係があるんだ?」
俺が手を挙げると、アルマがちっちっちと指を振る。
「確かに一番気になるところだね。もちろん僕も把握しているよ。それはもうたくさん、痛いほどに」
アルマは近くにあった椅子を俺たちと向かい合う形で置いて、ゆっくりと座る。
足を組んで、俺の方を向いた。
「この村には、伝説がある。しかしながら伝説というのは、あくまで噂話ってことが多い」
言って、アルマはにやりと笑った。
「でもこの村の伝説は本当だ」
「……それは?」
聞くと、
「もしも、この村の時計台に『秘密』があったとしたら。君たちはどう思うかね?」
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