50.聞き込み
「二人とも! とりあえず村人たちに聞き込みだ! なんでもいいから情報を集めるぞ!」
「やったろう!」
「任せてください!」
エリサたちに伝え、俺たちは家の玄関へと向かう。
ちらりと後ろを一瞥すると、イリエさんの姿があった。
俺はグッドサインを送ると、彼はこくりと頷く。
「雨だ……」
「相変わらず酷い雨ですねぇ……」
「本当にな。全く……」
俺は村を見渡す。
村人たちは建物が壊れているせいで、雨宿りもままならない様子だ。
どうにか無事な家に集まり、一緒に嵐が去るのを待っている状況である。
「とりあえず聞き込みだ。……まあ、相手してくれるかって問題があるけど」
俺は頭をかきながら、村内を歩く。
一つの家の前に止まり、扉を叩いた。
「すみません! 王都のギルドから派遣されたカイルという者です! 少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
しばらく待っていると、扉の隙間から顔を覗かせる女性の姿が見えた。
一つ会釈をすると、女性は静かに扉を開く。
「ギルドの方ですか……どうぞ。外は酷い雨ですから」
「あ、すみません。ありがとうございます。二人とも、お邪魔させていただこう」
「うん!」
「はい!」
中に入ると、そこには多くの村人たちの姿があった。
家を失った人達はここで雨宿りをしているのだろう。
椅子まで案内され、俺は腰を下ろした。
「こんな辺境まで助けに来てくださり、本当にありがとうございます」
「いえ。当然のことですから」
正面に座る女性に頭を下げ、微笑を浮かべる。
これくらいどうってことはない。
本当に当然のことだ。
「それでなのですが、俺たちはここを襲撃した魔族の情報を探していまして。なんでもいいのですが、何か知っていることはありませんか?」
「魔族……ですか」
女性は俯いて、少し考えるような素振りを見せる。
正直、トラウマを掘り返すようなものだから聞くものではないと自覚している。
しかし今は仕方がない。
協力いただくしかないだろう。
「消えました」
「え?」
女性が放った一言に、俺は小首を傾げてしまう。
魔族が、消えた?
「ええと、それはそのままの意味で?」
「すみません……私もショックであまり記憶が……。ただ、魔族が消えたのは覚えています」
「転移魔法を使った可能性が考えられるな……」
俺はトントンと指を机に当てながら考える。
転移魔法を使ったと考えるならば、魔力の痕跡がどこかにあるはずだ。
痕跡を調査すれば、どこへ向かったかを特定できるかもしれない。
「どの辺りで消えたかとかは覚えていますか?」
「……すみません」
「分かりました。情報、ありがとうございます」
俺は会釈し、ふうと息を吐く。
これまた面倒な魔族を相手にしてしまったかもしれない。
「そういえば、カイルさんは村長さんの家に向かっていましたよね?」
「あ、はい。挨拶に伺おうかと思いまして」
「やっぱり。しかし……村長さんが行方不明だなんて……」
「話は聞いています。任せてください、村長さんは俺たちが見つけますよ」
「ありがとうございます。彼は娘さん想いな良い方なんです。彼女のためにも、私からもお願いいたします」
「もちろんです」
娘さん想いな方だったのか。
それなら、もっと頑張らないとな。
「娘さんが村長さんが行方不明だなんて知ったら、悲しみますからね」
俺がそう言ってみせると、女性は少し不思議そうな顔を浮かべた。
あれ。俺何か変なことでも言ったかな。
「とりあえず、俺たちは他の方にも伺ってみます。ありがとうございました」
「いえいえ。何卒、魔族を倒してください」
頭を下げた後、俺は家の外へと出た。
相変わらず大雨である。
「魔族が消えたねぇ。痕跡を探すために、せめてどこで消えたかを特定しないとな」
「そうだけどさ。村長さんって娘いたんだね! このこと知っているのかなぁ?」
「この様子だと多分知らないだろうな。誰も伝えてない感じがする」
俺ははぁと息を吐きながら、濡れた衣服をパタパタとさせる。
「どうにかして、村長さんを見つけねえとな。ただ、あまりにも情報がなさすぎるってのが問題なんだけど」
「聞き込みするしかないねぇ。でもよかった。みんな、私たちのことを受け入れてくれて」
エリサはどこか安心した様子で口ずさんだ。
「こんな状況下だったら、普通はそんな余裕なんてないよ」
「確かにな。それもこれも、全て村長さんの力が大きいんだろう」
村長の能力があったからこそ、村人たちがいるわけだと思うし。
「んじゃ、聞き込み続けるぞ。このまま雨に打たれっぱなしもキツいしな」
「そうだね」
「引き続き頑張りましょう!」
二人がこくりと頷いたのを確認した後、俺は村の中を闊歩する。
「君!」
「ん?」
突如知らない叫び声が聞こえてきた。
俺たち以外の人を呼んでいるのかなとも思ったが、周囲には誰もいない。
「君だよ! 王都のギルドから派遣された人たちだろう!? こっちだ!」
「え、ええ?」
青年が窓から顔を出して、こちらに手を振ってきていた。
困惑してしまう。
しかし彼は俺が王都から派遣された人ってことを知っているようだ。
話は聞いてみて損はないだろう。
「こっちだよ! 遠慮せず家の中に入ってくれ!」