49.避けられちゃった……
どうしたものか。
多分、というか間違いなく俺が想像していた以上にリリット村の被害は甚大だ。
下手をすれば壊滅……の可能性もありえただろう。
今回の襲撃では運よく耐えることができたが、二回目の襲撃は分からない。
今度こそ村が全滅という未来もある。
楽観視はできる状況ではない。
「可能なら直接叩きたいな……」
戦闘する上では、やはり村内で戦うってのはあまりにも危険すぎる。
迎え撃つために全員を避難させるなんて、かなり無理のあることだ。
それに、そもそも相手は魔族だ。
何をしてくるか分からないから、そもそも村で戦うのは論外とも言える。
だからこそ……相手の居場所を探りたい。
「魔族の居場所を探しているんですか」
俺が悩んでいると、イリエさんがカップを持って話しかけてきた。
目の前にお茶を置き、椅子に腰を下ろす。
「可能なら魔族を直接叩きたいと思ってね。でも……まあ難しいことだと思う」
「そうですね。私もさすがに、魔族の場所なんて知りません」
イリエさんは静かに語る。
「魔族の襲撃自体が意味の分からない突然なことでしたから。魔族の場所なんて分かるわけがありません」
だよなぁ、と俺はため息を漏らす。
魔族の特定だなんて、現実的ではない。
俺はお茶を一口飲み、背もたれに体重を預ける。
「こんな時にお医者さんがいたら助かるのにねぇ~」
「そうだな。あのクソ医者がいればワンチャン――って待て。そうだ。あのクソ医者がいれば特定は不可能から、可能性はあるまで持って行ける!」
バンと机を叩きながら立ち上がり、イリエさんを見据える。
「ここがヤバいってなった時、王都のギルドに連絡したよね? それってどうやって連絡したか分かる? 人? それとも魔導具?」
遠距離から特定の場所まで連絡する手段は二つある。
一つは人間が直接伝えるパターン。
もう一つは魔導具の力を駆使して、連絡するパターンである。
「……多分、魔導具だと思います。一応、あります。こちらに」
イリエさんは立ち上がり、廊下を歩いて行く。
よし。魔導具ならクソ医者とも連絡が取れるはずだ。
俺は彼の背中を追いかける……のだが、若干の違和感を覚えた。
こうしてみると、男の子には見えない体格をしているよな。
でも……髪型はボーイッシュである。
声も中性的だし、最初見たときは男の子だと思った。
まあ、イリエさんがもし女の子だったら最初の時点で否定してきていたことだろう。
「これです」
「おお! 通話型の魔導具じゃないか! いい物持っているね!」
「村長が物好きでしたから」
「へぇ! それじゃあ早速使わせてもらうよ!」
俺はギルド――ではなく、クソ医者へと連絡することにする。
このタイプの魔導具は連絡したい相手を想像することによって、相手へと直接繋ぐことができるタイプのものである。
俺はクソ医者を想像しながら、魔導具に触れる。
『おお。カイルさんですか。珍しい魔導具を使っていますね』
すると、クソ医者が目の前に映し出される。
「突然連絡してすまん。ちょっと頼みたいことがあってさ」
『謝ることができたんですね。尊敬しますよ』
「くたばれ。で、本題だけどクソ医者のユニークスキルの力を借りたい」
『ふむ。確かカイルさん、今リリット村にいらっしゃるんですよね。噂で聞きましたよ。魔族退治だとか』
「ああ。そこで魔族の居場所を特定したいんだ。クソ医者、頼めるか?」
『……ふむ。いいでしょう。よく見てみると……ふむふむ。面白い話が聞けそうですので、ぜひお手伝いさせていただきましょう』
「ありがとう。で、今俺とクソ医者はどうしようもないほど離れている。その上で《条件探知》を発動するには――」
『確実な情報です。それを提供いただければ、特定はできるかと思いますよ』
「分かった。ちょっと確認したかったんだ。また連絡すると思うから、すぐ反応できる状態にしておいてくれ」
『はいはい。構いませんよ。しかしあなたは――面倒なことによく巻き込まれますね』
クソ医者は、なんだか興味深げな感じで聞いてくる。
俺が面倒なことに巻き込まれやすい?
また……確かに昔からそういうのには巻き込まれやすい体質だけど、なんで今更。
「今はそんな話する余裕はない。また帰ったらにしてくれ」
『分かりましたよ。それでは、ご連絡お待ちしております』
「よろしく」
そう言って、魔導具に触れると映し出されていたクソ医者の顔面が消えた。
「もしかしたら、この問題は案外早く解決するかもしれない。イリエさん、ちょっと村人たちに聞き込みをしよう」
ここまで来ると、確実な情報を集めるだけでいい。
俺は魔族の特定にそこまで時間が掛かるものではなかったことに安堵しながら、イリエさんに提案する。
「……私は待ってます」
「え、でも」
「私の役目は村長の帰りを待つことです。カイルさんのことを信用していますので、お任せします」
「そうか。分かった。それじゃあ任せてくれ」
俺はそう言いながらイリエさんの肩をパンと叩く。
「おっと」
その瞬間、体が大きくよろける。
あっぶねえ。危うく転けるところだった。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫。ちょっとバランス崩しただけだよ」
避けられちゃった……。
オッサンに叩かれるのは嫌だよな。
顔が熱くなるのを堪えながら、俺はエリサたちの方へと歩く。
泣きそう。