48.リリット村
貫通弱点の魔物だったか。
そりゃ、ユイたちを一番に警戒するわけだ。
俺は倒れた魔物へと近づく。
「ちょっと調査でもしてみるか」
何か見つかれば、クソ医者にでも持って行けば何かが分かるかもしれない。
そんなことを考えながら、魔物に触れる。
瞬間。
「は……?」
魔物がさながら水のように溶け、地面に染みこんでいった。
嘘だろ……?
こんな現象見たことがない。
「魔物が消えましたよ!?」
「そ、そんなことある!?」
どういうことだ。
こんなこと、ありえるのか?
しかしただ一つ言えることは、特殊個体である魔物は死亡後消えてしまう可能性が出てきた。
もしかすると、以前倒したオーガだって俺の魔法で消し炭になったのではなく『消えた』が正しいのかもしれない。
思考を巡らせていると、ユイが顔を覗き込んでくる。
「どうしますか?」
「一度村へ向かおう。これは直接魔族さんに聞いた方が話は早そうだ」
「分かりました。こっちです!」
「エリサ。一応いつでも魔法を発動できる準備を。ユイもな」
「了解!」
「もちろんです!」
俺は二人に指示を送り、森の中を歩いて行く。
相変わらず雨が酷く、服が濡れて体が重い。
気分も気象も最悪である。
ユイは地図を見ながら、前へと進んでいく。
「そろそろだと思いま……ありました」
「あったか……って、なんだこれ……」
「へ、へへへ……こんなの、初めて見たよ」
目の前には村の大きなシンボル的なものがあった。
ふと、ユイが持っている地図に書かれている文字が見えた。
『時計台が時を刻む村、リリット』と書かれていた。
しかし、そんな村の時計台は破壊され、今にも崩れそうになっていた。
「酷いな……これは……」
家屋もボロボロである。
全壊ではないが、この様子だと家を失った人間も多いだろう。
「ど、どうしたらいいんだろう! ねえ、どうしたらいいんだろう!」
「わ、わたしたちはどうすれば!?」
「とりあえず村長宅を目指そう。まずは一度状況を確認しなければならない」
俺はそう言って、村の中へと入る。
村人たちは俺たちを見るなり、一瞬体を震わせるが、人間と安心してか安堵していた。
状況は、かなり深刻だ。
村というには、もう難しいところまで来ているかもしれない。
しばらく歩いていると、村の中で一際大きな家を見つけた。
多分、ここが村長宅だろう。
「ギルドから派遣された者です! この村の代表の方はいらっしゃいますか!」
ノックし、しばらく待っていると家の中から足音が聞こえてきた。
どうやら誰かはいるらしい。
軋む音とともに、扉が開かれる。
「誰……ですか」
「お、男の子? ええと、俺たちはギルドから派遣されてきた『英雄の証』というパーティー。俺はカイル」
「私はエリサ!」
「ユイです!」
「……イリエです」
静寂。
困ったな。あまり幼い少年と話すのは、得意じゃないんだけど。
とはいえ、見た感じエリサたちより少し下くらいだろうか。
「村長のことですか?」
「あ、うん。村長を探しててね」
彼、村長さんのことを知っていそうだ。
それなら話が早い。
彼に村長さんを呼んできてもらおう。
「村長さんはどこかな? お話がしたいんだけどね」
そう言うと、少年は拳を握る。
「……行方不明です。どこにいるのかは、私にも分かりません」
「行方不明って……踏み込んだことを聞いちゃうけど、どうして?」
「魔族が襲撃してきた時に色々とあったんです。今は私が村長の代わりをしています」
「……なるほど」
この感じだと、詳細なことは聞けなさそうだな。
彼も彼で、何か隠しているわけではないだろうがこれ以上聞くのは限界があるだろう。
ともあれ、彼の言葉を信用するならイリエさんが今の代表だ。
「こんな幼い子が任されるなんて、君は信用されているんだね」
「幼いって言いましたか? 今、私のことを子供扱いしました?」
そう言うと、イリエさんがぐっと顔を寄せてくる。
あ……さすがに不味かったか。
「ごめんごめん。なんでもないよ。ええと、俺たちは魔族を討伐するためにここまで来たんだ。色々と村内を行動すると思うけど、大丈夫かな?」
「構いません。自由にしてください。……皆さん、かなり濡れていますね」
「あ、ああ。酷い雨だからね。かなり濡れちゃったよ」
俺は頭をかきながら伝えると、イリエさんは部屋の奥を一瞥した。
「暖を取っていますので、少し体を温めてください。雨が止むかは知りませんが」
「ありがとう……そうだな」
ちらりとエリサたちを見る。
うーん。少し休憩をは取った方がいいだろうな。
「お言葉に甘えることにするよ。ありがとう」
「いえ。こちらです」
イリエさんに案内されるがまま、部屋の中を歩く。
様々な狩猟用の銃が置かれている。
ここの村長は狩りとかが趣味なのだろうか。
「こちらにお掛けしてお待ちください。お茶を持ってきます」
「あ、ありがとう」
「ふぇぇ……暖かい……」
「暖かいですねぇ」
薪がメラメラと燃えている。
二人はそれを幸せそうに眺めていた。
「……しかし礼儀のいい少年だな。村長に代わりを任されるだけある」
俺は半ば感心しながら、ちらりと二人を見る。
「エリサたちより、よっぽどしっかりしているかもな」
「なんだって!?」
「失礼ですよ!」
「冗談だよ冗談」
俺は笑いながら、ふうと息を吐いた。
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