47.『特殊能力』
「一発ぶん殴ってやる……!」
俺は魔物を捉え、ユイの肩を叩く。
彼女はこくりと頷くと、ユイは弓矢を出現させる。
同時に、エリサも杖を生み出した。
二人の動きを確認した後、俺は木陰から飛び出す。
瞬間、こちらに気がついたのか魔物が俺の方を向く。
相変わらず目の焦点は合っていないが、間違いなく俺を敵と認識しているだろう。
「環境的に、思い切り殴ったら不味いよな!」
近くには村があるだろうし、本気で殴ってしまうと魔物が村まで吹き飛んで行ってしまう可能性がある。
それだけでも魔物が家屋を破壊しながら飛んでいく上に、万が一物理耐性を持ってみてみろ。
魔物はノーダメージで、村へと解き放たれることになる。
間違いなくバッドエンドだ。
だから――相手は絶対に吹き飛ばさない。
飛んでいくタイプのパンチではなく、内部へと振動するタイプのパンチ。
「喰らいやがれ!!」
俺は拳を構え、そして魔物へとぶつける。
直撃した瞬間、轟音が周囲に響いた。
魔物の体は大きく揺れ動き、ふらりとよろめく。
確かに、内部を破壊した手応えがあった。
間違いなく内臓類はただじゃすまないだろう。
『…………』
「のわりにはけろっとしてんなぁ……お前よぉ?」
俺は未だ健在な魔物を見据え、苦笑してみせる。
「エリサ! ユイ! こいつは少なくとも物理耐性を持っている! ここは一度お前らに任せる!」
「分かった!」
「任せてください!」
俺がやってもよかったが、彼女たちに経験をさせないままでいさせるのも危険だ。
ここは二人に任せるべきである。
バックステップを踏みながら、下がっていく。
一定の距離を取り、この辺りまで来れば攻撃の邪魔にならないであろうところまで来た。
だが――。
「どうした二人とも! 攻撃はまだか!?」
いくら待っても、攻撃が始まらない。
俺は若干の焦りを抱きつつ、魔物を観察する。
「……なんだ。あいつ」
向こうも向こうで攻撃を喰らったのだから、多少なりともこちらに仕掛けてきてもおかしくない。
なのに、相手も全くと言っていいほど攻撃をしようとしてこなかった。
ただ、じっと一つの方向を見ている。
「いや……!?」
じっと見ているのはエリサたちの方だ。
俺は慌てて二人の方向を見てみる。
「な、なんで……」
「おかしい……です……」
二人は武器を構えたまま、固まっていた。
まるで金縛りにでも遭ったかのようだ。
「動けないのか!?」
叫ぶと、二人はゆっくりと頷く。
動けない……か。
「これ……やべえな」
特殊個体ではあるが、俺の想像していた個体とは違うと考えていいだろう。
俺が想像していた個体は『物理耐性』だったり『魔法耐性』だったり。
何かの『耐性』を持っている個体だった。
しかし、この常識だと思っていたものは間違いだったらしい。
「『特殊能力』……ってパターンもあるのかよ」
相手は間違いなく、通常個体が持っていない『特殊』な能力を持っている。
想像するに、相手の動きを防ぐ系のデバフ、あるいは魔法か。
『物理耐性』持ちな上に『特殊能力』持ちか。
魔王軍さんの技術力はやべえな。
これは明らかに人類の脅威だ。
「……どうして俺の時にはこいつ、能力を発動しなかったんだ」
違和感が残る。
だが、今は考える暇なんてない。
この能力がどういうものか分からない今、彼女たちに効果を発揮したまま放置するのは危険だ。
俺は手のひらを相手に向け、詠唱をする。
「《ファイア》ッッ!」
明かりが集まり、収束していく。
そして、大きな塊となって魔物に向かって放たれた。
「当たった!」
俺が放った攻撃は間違いなく当たった。
当たったのだが。
「無傷かよ……」
相手は普通に佇んでいた。
今もなお、エリサたちの方をじっと見ている。
これ、ヤバい。
下手をしたら、ここで永遠に足止めを喰らうかもしれない。
考えるんだ。一体あの魔物は何が弱点なんだ。
「俺には無反応で、エリサとユイにだけ能力を発動している……か」
多分、能力が発動する条件は特定の相手を眼で見据えることだ。
そして、今こいつは必死でエリサたちを防いでいる。
「試してみるか」
俺は速攻地面を蹴り飛ばし、魔物へと近づく。
さすがに近づいたからだろう。
一瞬魔物が俺の方を見た。
が、すぐにエリサたちの方を見る。
こっちは問題ないって判断なんだろうが。
「俺は人間を逸脱しているんだぜ……あまり舐めない方がいい!」
咄嗟に魔物の顔面へと飛び込む。
馬型の魔物なので、俺は頭を覆い込むように視線を防いだ。
途端に、魔物が俺に向かって攻撃を仕掛けてくる。
何度も魔法系の攻撃を俺に放ってきた。
だがな……俺の防御力は化け物級なんだ!
「う、動ける!」
「はぁっ! やっと解放されました!」
こいつは魔法系の攻撃には耐性を持っている。
つまり残る選択視は一つのみ。
貫通攻撃である。
「ユイ! 最大の火力で矢を放て!」
「で、ですが! 今のままだとカイルさんに当たってしまうかもしれません!」
「気にすんな! 俺は多分これくらいじゃ死なない! 遠慮せず打ち込んでこい!」
矢を喰らったところで、どうにでもなるはずだ!
「放て! ユイ!」
「わ、分かりました!! 当たってください!!」
ヒュンと空気を切り裂く音が聞こえる。
「あぶっ……」
俺の首元を矢が通過し、魔物へと当たった。
その刹那、魔物はがくんと脱力して倒れ込む。
「当たりだったか」
どうやら俺の読みは当たっていたらしい。
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