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46.またかよ

 アルド男爵領。


 名前だけは聞いたことがある。


 それもそうで、その領地は国家の端に位置している。


 つまりはかなりの辺境なのだ。


「どうしてそんな場所で魔族の被害が……」


 人間と人間の争いにとっては、辺境からじわじわと攻めていく戦法はよくあることだ。


 しかしながら、魔族は違う。


 彼らは短期的な戦果を望み、最も人間が苦しむ方法で行動する。


 前回王都に魔族が来たように、人が多くいる場所に好んで攻め入ることが多い。


 だが今回は違う。


「カイル……また、死者が出たんだね」


 エリサが馬車に揺られながら、ぼそりと呟いた。


 ユイもどこか悲しげな表情を浮かべている。


「ああ。死者が出てしまった。どうやら人類と魔族は、あまり良い方向には進んでいないらしい」


 長年生きていると、魔族だっていい加減人間と仲良くしたらいいのになとも思ってしまう。


 こんな無駄な争い事をしたって、何も生まないのに。


 けれど、相手は人間を殺した。


 その時点でもう、俺たちはリリット村に潜む魔族とは仲良くなることはないのだろう。


 人間と魔族は、きっとわかり合えない。


「最近になって、『死』って言葉が近くなったような気がする」


「そうですね……前までは少し遠い存在だったものが、今では隣にいるような感覚です」


 彼女たちはぼそりぼそりと言葉を吐く。


 それもそうか。


 彼女たちはまだまだ新米だ。


 俺は背もたれに体重を預けながら、ふうと息を吐く。


「それが責任ってやつだ。冒険者は夢もあるが、同時に残酷なもんまで見えちまう。ランクが上がる。地位が上がるってのは、そこまで良いもんじゃない」


 でも。


「お前らは覚悟、できてるだろ? それとも、俺が勘違いしていただけか?」


 尋ねると、二人は顔を上げて何度も頷いた。


「できてるよ……! ただ、私たちは高みを目指したいわけじゃないから!」


「そうです! わたしたちは……誰かの心に残りたい……!」


 はぁぁぁぁぁぁぁ。


 やっぱり若いっていいねぇ。


 俺なんて、そんな言葉言えないよ。


 昔は言えたかもしれないけど、三十にもなったオッサンには少しばかりキツすぎる。


 でもよ、俺は二人のその言葉が聞けて嬉しい。


 すごく満足している。


 歳、取っちまったからかな。


 それなら少し悲しいな。


 でも、悪くない。


「いい返事だ。オッサンは嬉しいよ」


 馬車はガタンガタンと揺れる。


 そろそろ、アルド男爵領に入る頃合いだろう。


 俺は小窓から顔を出し、外の様子を確認する。


 かなり空が曇ってきているな。


 雨……いや、雷までありえそうだ。


「御者さん。大体リリット村まで、大体どれくらいで到着しそうですか?」


「そうだな……後四時間くらいか。じゃが、ギルドからの指示で近くで下ろすことしかできない」


「大丈夫ですよ。そりゃ、危ないですから」


 そう言いながら、俺は席に座る。


 あと四時間か。


 まだまだ掛かりそうだな。



 雨が降り出してきた。


 雷は伴っていないが、風が強くなってきている。


 天候としては、最悪の一言であった。


「これは……酷いな」


「すごい雨だね……」


「こればかりは仕方ないですね……」


 俺たちは無事、リリット村付近の森まで到着した。


 馬車から降りて、木々の下で雨の様子を眺めている状態である。


 少しだけ待って見て、マシになったら……とも思ったが、この様子だと丸一日かかりそうだ。


「リリット村に向かうか」


「うん! ええと、どっちだっけ」


「こっちです! この森を抜けた先に、リリット村があるはずです!」


 ユイは指を差しながら、森の奥へと走って行く。


 俺も彼女の背中を追いかけようとして、その瞬間に嫌な気配がした。


 咄嗟にユイの肩を掴み、近くの木の陰に移動する。


 エリサも反応して、俺の隣にある木の陰に隠れた。


「ど、どうしましたか……?」


「なにかあった?」


 俺は息を殺し、こっそりと陰から顔を出す。


 ……魔物だ。


 ただ、そこまで強くはない魔物だ。


 馬が魔物化したものだろう。


 魔物としての名前を持たない相手は、基本的に下級に属する。


「またかよ……」


 だが、様子が違った。


 意識があるようには思えず、さながら人形かのようにさまよっている。


 額には、紋章が刻まれていた。


「な、なにあれ……」


「あんな魔物……初めて見ました……」


 そうか。


 エリサとユイは初めてだったな。


 多分、かなり不気味だろう。


 俺だって二回目だけど、未だに慣れない。


 相変わらずゾクゾクするし、見ているだけで不安になる。


「こんなのが村付近にいるとか、やべえだろ」


 冷静に考えてそうだ。


 魔王軍に支配されている魔物が、普通に村の近くでうろついているなんて想像するだけで恐ろしい。


 あまりにも危険すぎる。


 ともあれ……一度こいつを倒すことに集中するべきだ。


 しかし。


 こいつも前回の魔物と一緒で、何か特殊なもん持ってんじゃないだろうな?


「試してみるか」


 俺は拳をぐっと握り、エリサとユイを見る。


「俺は攻撃を仕掛ける。相手は多分、何か特殊なもんを持っている可能性がある。十分注意して、攻撃の準備をしてくれ」


「分かった」


「了解です」


 俺は二人に確認を取った後、一体の魔物を見据えた。

更新!ちなみに、今回から新章入ります!盛り上がってきますよー!

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