43.一緒に住もうね!その代わり家賃も出してね!
「飯……と言っても、高い飯屋とかじゃなくてギルドの酒場なんだけどな」
「なんでぇ!? もっとあるでしょ! フォアグラ! トリュフ!」
「美味しい上に高い料理が食べたいです~! もう高いだけでもいいです~!」
ユイに関して言えばあれだろ。高いだけで満足する系のあれだろ。
全く……最初こそユイはまともな女の子だと思っていたんだけど……このメンツ。なかなかにぶっ飛んでいる。
まともなのは俺しかいないのか……。
俺はクソ医者から人間を逸脱しているって言われているけど。
はぁ……まともなのいねえなこのパーティー。
「わがまま言わねえの。さぁギルド着いたぞ」
俺はギルドの扉を開き、久々の空気を鼻から吸い込む。
やっぱギルドが一番落ち着くな。
俺の実家感があるわ。
「あら! カイル様お久しぶりです!」
「受付嬢さん久しぶりです。まあ、久しぶりってほど離れていたわけじゃないと思うんですけどね」
受付嬢さんは空のジョッキを片手にいそいそと働いていたようだ。
ここのギルドの受付嬢さんは、事務仕事だけではなく酒場の手伝いもしている。
本当に大変な職業だと思う。
「あまりにも顔を出さないんで、皆さんとカイル様が死んだか死んでいないかギャンブルしていましたよ!」
前言撤回。
許せねえわ。
はぁ……まあそれもこのギルドの面白いところってことで片づけるか。
「ちなみに、今回はどっちに賭けてたんです?」
「カイル様が死ぬほうです! 帰ってきたので、私は十万ほどの負けですね! 給料の三分の一くらいが吹っ飛びました!」
「え……? マジで言ってるの? それ、マジな感じ?」
「ははは! どうでしょう……」
そう言いながら、静かに笑う受付嬢さん。
え、怖いよ。
俺めちゃくちゃ怖いよ。
この人のこと、もう普通の目で見れないかもしれない。
「まあそれは置いておいて! 久々のギルドってことは依頼ですか?」
「いや、今回は食事でもと思いまして」
「いいですね! えーと、三人座れそうなスペースはあちらにありますので、どうぞ座ってください!」
「ありがとうございます。よし、んじゃ二人とも飯食うか」
「高級料理……」
「お金ぇ……」
俺にはこの二人を救うことはできないかもしれない。
心配だよ、本当に。
◆
「ねえ! もっと頼んでいい!?」
「足りません! まだまだ食べれます!」
「とかいいつつも、そういうところはいい性格してるよな」
普通に楽しそうに食事を取っている二人を眺めながら、俺は水を飲んでいた。
高い料理~だとかいいつつも、感覚がおかしくなってないようで安心した。
本当に安心できるのかは怪しいけど。
「しかし久々に落ち着いて飯食ったなぁ」
ここ最近はずっと忙しかった記憶がある。
そう、スキルが覚醒してからずっとだ。
あんなスキルが俺の人生を変えるだなんてなぁ。
世の中不思議なこともあるもんだ。
とりあえず、今日と明日くらいはゆっくりしたいもんだ。
「よし。そろそろ適当に解散するか。俺は宿でも取るよ」
食事も落ち着いてきたので、俺は立ち上がって二人に声をかける。
すると、エリサが自慢げな表情を浮かべて俺の肩を叩いてきた。
「もしかして、宿って言った?」
「ああ。なにかおかしなことでも言ったか?」
俺は別に変なことは言っていないと思う。
というのも、俺みたいな移動が多い冒険者は家を持たないことが多いのだ。
持っていたところで、そもそも家に帰らないから……というのがある。
「わたしたちの家でお泊まりなんていかがでしょうか!」
「ま、アパートだけどね。狭い部屋だけど、三人くらいなら寝られるかなぁ」
「おお。ありがたい……けど待て待て。お前ら、冷静になってくれ。男を自分の家に上げてどうする」
特にオッサンである俺をだ。
信頼してくれているってことなんだろうけれど。
「まあいいじゃん! というか、もう住んじゃいなよ! ねえユイ?」
「ですね! それがいいと思います!」
「ああー待て。お前らの考えが大方分かったわ」
基本的に、冒険者というのは安定しない職業の代表例だ。
稼げない時はとことん稼げない。
「「一緒に住もうね! その代わり家賃も出してね!」」
俺とエリサの声が重なる。
「わぁ! 声が重なるなんて、まるで運命みたいだね! なおさら住まないわけにはいかない!」
「さぁ! 行きましょう!」
「……はぁ。なんかお前らを心配する必要はない気がしてきたわ。分かった。家賃は多少出してやるよ」
大きく嘆息をする。
俺は彼女たちに手を引かれながら、家へと向かった。
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