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42.馬車代はしっかりと貰っていく

「とはいえ。私はあなたたちに情報を提供することをお約束いたしますが、さすがの私も隠された世界の秘密なんてポンポンと知っているものではありません」


 クソ医者は足を組んで、首を横に振ってみせる。


「確かに私はすごい医者であって、マル秘情報も持っている万能な医者ではありますが、知らないことは知らないです」


「つまりなんだ。今は特に話せる情報はないってことか?」


「そういうことです。まあ、あれですね。私ばかりに期待せずに、君たちも頑張りなさいということです」


「そっかー。でも仕方ないね」


「なんでも知っているわけじゃないですもんね」


「ええ。それに、急がば回れという言葉もあります。短期的な結果を求めるより、長期的な目で見て正解を探してみるのも良いと思いますよ」


 クソ医者が言っていることはもっともである。


 もっとも、俺たちは特に急いでいるわけではない。


 魔王軍の行動は危険視しなければならないが、大きな人類に対する侵攻は今のところ起こる気配はない。


 のんびりとまでは行かないが、まだまだ俺たちだけで情報を探す余裕はある。


「国王様からも、自由にやってくれって言われているしな」


 俺は椅子から立ち上がって、くるりと踵を返す。


「それじゃあ帰るか……って思ったけど、忘れてたことがあったわ」


「おや。なんですか。まさか私にお礼としてディナーのお誘いでも? すみません。私はオッサンと食事は行かない主義でして」


「いや違う。金返せ」


「……お金ですか? はて、全く心辺りがありませんね」


 クソ医者は首を傾げて、指をくるくると回す。


 心辺りがないと言ってはいるが、こいつは間違いなく理解している。


「王都からリエトン伯爵領への馬車代。往復分返せ」


「ははは。まさか未来の勇者パーティーたちが一般庶民に些細なお金をたかるんですか? 面白い冗談ですね」


「依頼者はお金を出さなきゃならないってルール、知らないわけないよな?」


「申し訳ありませんが、私の全知全能な頭を持っていたとしても、そんな情報は一切該当しませんね」


「返せ。医者だから金持ってるだろ」


「はて。カイルさん、医者がお金を持っているなんて迷信を信じているんですか? そんなんじゃ世間では老害だなんて言われますよ」


「一応聞こう。普段の食事はどんなものだ。そして俺は老害じゃない」


「私の食事ですか? 朝は喫茶店にてモーニングステーキを。昼は近くの出前にてランチステーキを。夜は王都の中心にあるお店にてディナーステーキを。ものすごく庶民的ではありませんか」


 こいつは何を言っているんだろうか。


「庶民的じゃないな。かなり上流階層だと思うが」


「おっと。もしかしてカイルさんは私より貧相な食事を取っているんですか。それは可哀想だ。それならお金を渡しましょう」


「おう。可哀想だから金返せ」


 俺はそう言うと、医者は静かにこちらを見据える。


「プライドというものはないんですか……?」


「オッサンにプライドを求めても、生憎と出てくるのは哀愁だ」


「……今回は負けました」


「あまり舐めない方がいい。オッサンは可哀想な存在なんだ」


 俺は腕を組んで、クソ医者を見下ろす。


「……カイル」


「……カイルさん」


 二人が、苦笑しながら俺の方を見てくる。


 まあいい。彼女たちの表情はすぐに笑顔に変わるだろう。


「全く、仕方がありませんね。これ、馬車代です」


「はい。しっかり徴収させていただきました」


 そう言って、俺はくるりと周りエリサの方を見る。


「んじゃ、クソ医者から回収したお金で飯でも行くか!」


「最高だよ! やっぱカイルは最高だね!」


「ナイスです! よーし、ご飯食べますよ!」


 これが俺たちだ。


 なんて幸せなのだろうか。


「ともあれ、皆さん頑張ってください。一つの真実を手に入れることができるよう、私はバックアップさせていただきますね」


 そう言うクソ医者に手を振った後、俺たちは病院の外へと歩いて行った。

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