41.協力関係
「【条件探知】って……聞いたことがないスキルなんだけど……」
「ユイ、知ってる?」
「知りません……しかし、誰も知らないということはかなり珍しいもの……ということは分かります」
俺は自分で言うのもなんだが、ある程度場数は踏んでいる。
そのため、多くの人と出会うことがあった。
同時に、多くのスキルも見てきた。
とてつもなく有名なスキルから、地味なスキルまで。
しかしながら、【条件探知】なんていうスキルなんか聞いたことがない。
あの領地を治めるリエトン伯爵ですら知らなかったオーガを探知していたとなると……すごいものだというのが理解できる。
「まあまあ、そこまで驚かないでください。先ほども言いましたが、発動条件がなかなかに厄介なんです。なので、普段は地味なものですよ」
「ちなみに、発動条件って聞いてもいいのか?」
「もちろんです。私は約束しましたからね。あなたたちに情報を提供すると。ならば、私の情報も提供すべきです」
そう言いながら、クソ医者はにっこりと笑う。
「発動条件は『確実な情報』、もしくは『確実な物証』です。それらのどれかが揃えば、敵がどこにいようが、どこへ逃げようが私は対象を常に補足することができます」
「なんだそれ……めちゃくちゃ強いじゃないか……」
「確かに強力かもしれません。その条件が揃えば、ではありますが」
「というと、不正確な情報や物証だとスキルは発動しないってこと?」
「そうですね。特に曖昧なものであればあるほど」
医者は指を立てて、説明を始める。
「たとえば『棍棒を持っているゴブリン』を探知するとしましょう。これがまず一つの『情報』です。そして、もう一つの情報が『リエトン伯爵領』とします。これを探知しようとするとどうなるか」
「あまりにも条件が曖昧すぎて、誤探知をしてしまうってところか?」
「その通り。棍棒を持っているゴブリンなんて数多くいます。それだけでも探知するのが難しいのに、リエトン伯爵領という曖昧な情報だけだとヒット数が多すぎてスキルは機能しません」
言って、クソ医者は「厄介でしょ?」と肩をすくめる。
「つまり、今回は誰かが確実な情報、もしくは確実な物証をあんたに提示したってことか?」
「そういうことです。匿名冒険者さんが依頼の最中、そのオーガと遭遇したらしいようで。その冒険者さんが優秀でしてね。《念写》魔法でオーガの姿を捉えた上に、確実な場所まで教えてくれましたから簡単に特定できましたよ」
「んで、俺たちを試すためにそのオーガの討伐を依頼したと」
「ですね。もしかして私が敵か何かかと勘違いしていましたか? 残念、私はあくまで中立ですよ。なんたって医者ですから。怪我をしている誰かを平等に診る者というのは、中立であるべきですからね」
……確かに俺はこのクソ医者が敵である可能性も考えていた。
というか、あの状況下で確実に敵ではないと断言するのは難しかったと思う。
それはもう、今更言い訳でしかないと思うんだが。
長年冒険者をやってきたが、俺はまだまだだなと実感する。
「っていうか、あんたって医療スキルじゃないのに医者をやってたのか!?」
ふと冷静になってみると、異変に気がつく。
大抵、医者ってのは医療スキルを持っているものだ。
それも上位の医療スキルを持っている者が医者という職業に就く。
もちろん冒険者業に就く物好きもいるが、ほとんどがそうである。
「ええ。珍しいでしょう?」
「珍しいというか……それって大丈夫なの?」
医者に就くには、国家からの承認がいる。
もちろんそれは個人が持つスキルを鑑みて判断されるから、医療スキルじゃないこの医者が医者たらしめている理由が分からない。
「大丈夫です。努力しました」
「……は?」
「努力したら医者になれました」
「マジ?」
「これが世間で俗にいう天才です」
「……確かに天才だ」
「なんか私よく分からないけど、すごいなぁ」
「いやいや、本当にすごいですよエリサさん! 普通はなれませんから!」
こう言われると、俺がこいつのことをクソ医者だというのは間違っていたのかもしれない。
クソ医者ではなく、ギリギリクソ医者といったところだろうか。
「ということで、カイルさんは私のことを天才と崇めてください。地面に頭をつけて私の靴を舐めてください。あ、やっぱりあなたに靴を舐められるのは嫌なので、床でも舐めていてください」
「よーし、お前はクソ医者だ。少しでもお前を認めようとした俺が間違っていた」
こいつはどんなに頑張ってもクソ医者から逸脱することはできない。
クソなものはクソだ。
「ともあれ、話は戻りますが約束は守りますよ。あなたたちに情報を提供しますし、協力します。期待していますよ、皆さん」
「……とりあえず分かった。これからよろしく頼む」
俺はため息を吐きながらも、クソ医者と握手を交わした。
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