4.なんかいいな
「『英雄の証』かぁ……なんかいいな」
俺は王都へ帰還する馬車に揺られながら、そんなことを考えていた。
新たに所属することになった『英雄の証』。
響きからして、なんだかオッサンには似合わない名前だ。
なんだか場違いな気がして、少し恥ずかしい。
「ふふふ……カイルが私たちのパーティに入ってるよ!」
「想像できませんね……ふふふ。最高じゃないですか」
「……へへ」
いやぁ、しかし若い子に求められるってのはいいものだ。
オッサン、久々に生まれてきてよかったなと思えたよ。
俺は、ここで頑張ろう。
「なあ。二人の最終目標ってなんだ? 何かあったりするのか?」
尋ねてみると、二人は口を揃えて言う。
「「勇者の称号を手に入れる!」」
「おお……そりゃ大きく出たな」
勇者の称号と言えば、Sランクパーティになるより難しい。
Sランクになるには、ギルドの承認だけでいい。
しかし勇者の称号となると国家――我が国レイピア王国からの承認がいる。
「だが、最終目標としては百点だな」
これで人より少しだけすごい人間になりたいみたいな夢だったら、少し残念に思っていたかもしれない。
彼女たちは俺が想像していた以上に、期待を裏切らない回答をしてくれた。
「まあ……恥ずかしくて言えないんだけどね」
「わたしたちには、やっぱり難しいかなって……」
「そんなことないさ。仲間になった以上、俺が全力でバックアップする。修行だっていくらでも付き合うよ。なんたって無駄に三十年生きているからな」
「わぁ! 嬉しい!」
「カイルさんと一緒に修行できるなんて感激です!」
「ははは。喜べ少女たち」
んじゃ、俺の最終目標は彼女たちを勇者に育てることだ。
三十年生きてきて、生まれて初めてこんな壮大な目標を掲げたものだ。
「さて、依頼を報告しに行くか」
ギルド前に到着した俺たちは、馬車から飛び降りて御者さんにお礼を伝える。
扉に手をかけようとした瞬間、何か嫌な予感がして俺の腕が止まった。
「どうしたの?」
「何かありました?」
「いや……なんか中で何か起きてるな」
俺の直感が言っていた。
今、この扉を開ければ下手なことに巻き込まれる。
しかし開けないわけにもいかない。
俺は嘆息した後、扉を押し開いた。
「へへへ! そこの受付嬢! さっさと金をこの袋に詰めろ!」
「ひ、ひえ!」
「……魔族か」
ギルド内には、一体の魔族の姿があった。
魔族は麻袋を受付嬢に突きつけ、金を入れるよう促している。
近頃、魔族が人間界に入り込んでいるという話が出ていたが、まさか王都まで来ているとはな。
「ま、魔族!?」
「や、やばくないですか!?」
「やばい。だから止めないといけない」
魔族が人間の通貨を求めるのは、物資の調達のためと言われている。
近々、人間に対する大きな攻撃を企んでいるという噂があるのだ。
だから、こういうのは止めないといけない。
俺は魔族の下まで歩いていき、肩を叩く。
「ああ!? なんだてめえ!?」
「すんません。そういうの、ちょっとやめませんかつっても、やめないよな」