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39.勝手に殺すなクソ医者

 人との距離感というものは、なかなかに難しいものである。


 俺は確かに冒険者としてみたら年齢的にもベテランって部類になってくるだろう。


 あんまり自分がすごいだとかは思っていないし、ベテランと言うにはあまりにも幼稚だと思うが。


 しかしだ。


「病院でイチャイチャしだす患者が現れましたか……全く、民度が悪くなりましたね」


「むむ。イチャイチャしてないのに、看護師さんが変なこと言ってる」


「失礼ですね。ね、カイルさん?」


「……」


 病院の待合室にて。俺は漫画を読みながら、はぁと息を吐いた。


 これに関して言えば、看護師が正しいよ。


 そりゃね。余命宣告された時の看護師には腹が立ったぜ?


 だって絶対余命宣告なんてされたことないじゃん。


 というか、数々の余命宣告された患者を見届けてきて冷静でいられるその精神を持っている人が人の気持ちなんて分かるわけないじゃん。


 でもさ、今回ばかりは看護師が正しいわ。


「やっぱ二人とも距離近くね?」


「全然。ね、ユイ?」


「ですです。これくらい普通ですよ」


「ちょっと動けば、お前らと体当たるんだけど。


「私たちとの心の距離が反映されているんだよ」


「ですです」


「それにしてはめちゃくちゃ距離感おかしいな。俺ってそんなにお前らに懐かれるようなことしたっけ?」


「ファンだからね」


「ファンですから」


 ファンとはいえ、やっぱりあれだ。


 ほら、俺って三十じゃん?


 三十と十代女性の心の距離感じゃない気がするんだよ。


「たとえばなんだけどさ。俺がアイドルだとするじゃん」


「カイルはアイドルだよ? 何当たり前のこと言ってるの?」


「ですです」


「……アイドルだとして、ファンとアイドルとでは一定の距離感があると思うんだよ」


 アイドルとファンとでは、やはり一定の距離感がある。


 だから、もしそれが彼女たちに該当するならもう少し何かがあると思うんだ。


「違う違う。分かってないなぁ」


「ですねぇ」


「……なにがだ?」


「カイルさんは路上で頑張って集客して、狭いライブ会場で歌を歌って、終了後にファンとハグ会するタイプのアイドルだよ!」


「変にリアリティーのあること言うなよ! 怖えよ! 俺、今めちゃくちゃぞわっとしたよ!」


 俺は立ち上がってエリサから距離を取る。


 いや、普通に怖いよ。


「な、なぁ。ユイもそんな感じなのか?」


「そうですね。具体的に言えば――」


「やめろ。みなまで言うな。分かった。俺は全て分かったよ」


 多分ユイはもっとヤバいことを言う気がする。


 なんたってユイなのだ。


 彼女のこれまでの言動や行動から、大方察することができる。


 全く……ほんといつからこんな感じになったんだぁ?


 俺は腕を組んで、少し考えてみる。


 うーむ。


 心当たりしかないな。


 あれだ。ルルーシャさんの件以降だ。


 思い出すだけで恥ずかしいが、キスされて……。


 うん。やっぱり絶対あれだ。


「なあ、ルルーシャさんのこと二人はどう思ってる?」


「お金をくれる痴女」


「カイルさんにキスをするという禁忌を犯した痴女、もといお金をくれるいい人です」


「よーしお前ら、少し頭冷やそうな」


「あうっ」


「ひうっ」


 俺は腕を広げて、そのまま彼女たちの額に向けて手のひらをペチンと当てた。


 全くこいつらは……。


「カイルさーん。イチャイチャするのはやめてくださーい。順番ですよー」


「あ、はーい」


 俺は看護師さんに会釈して、二人を一瞥する。


「んじゃ、行くか。色々と聞かなきゃだしな」


「そういえば言ってたね! よく分かんないから、私は隣で聞いてるよ!」


「わたしもそうしまーす」


「絶対お前らにも関わってくるから、話はちゃんと聞いとけよ~」


 そう言いながら、俺は診察室へと入っていった。


「おや。生きていましたか。葬儀の準備でもしようかと考えていたのですが」


「勝手に殺すなクソ医者」


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