37.クソ医者に聞くこと
「見たところ、カイルは今回のオーガに関して心当たりがあるのか?」
「あ、はい。心当たりがあるというか、知っていそうな人がいまして」
「ふむ。興味深いな」
リエトン伯爵と森の中を歩きながら、俺はそんなことを話していた。
それにしても、自分が何かオーガのことを知っているなんてことを一言も言っていないのに、彼から聞かれるとは。
少し驚いてしまった。
ともあれ、事実俺には知っていそうな人物を知っている。
「しかしッッッ! 君の魔法は見事だったッッッ!」
言いながら、リエトン伯爵が自慢の筋肉に力を込める。
ずっと上半身裸のこともあって、ムキムキな筋肉がミチミチと動いているのが分かる。
本当にすげえな。筋肉って鍛えたらあんなにも動くんだ。
「あれはただの《ファイア》だったのだろう?」
「まあ……恥ずかしながら、俺はまともな魔法が使えない感じでして」
「ただの《ファイア》であの威力ッッッ! ふはははッッッ! つまり魔法も圧倒的な筋肉でどうにかしたってところかッッッ!」
「……?」
そこ、魔法と繋がる?
筋肉と魔法、関係なくね。
しかしリエトン伯爵は真剣なのか、心底関心したように頷いている。
「私も参考にしなくてはなッッッ!」
「さ、参考になるのなら」
絶対に参考にならないと思うんだけど。
俺はただ、ステータスがおかしいことになっているだけだし。
「ああ! やっと見つけた!」
「もう、本当に速すぎますって!」
なんてことを話していると、正面から女の子の声が聞こえる。
ふとそちらを見てみると、エリサとユイの姿があった。
「この様子だと、もう倒しちゃった?」
「ああ。無事倒したよ」
「さすがカイルさんです! わたしも見たかった……」
「まあ……色々と問題が見つかったから、喜べるかどうかは分からないけどな。とりあえず、俺たちはクソ医者に聞かないといけないことができた」
「あの人にですか?」
「ああ、確か色々知ってるとか言ってたね。でもそれがどうしたの?」
エリサたちは小首を傾げて、尋ねてくる。
まあ彼女たちはあの場にいなかったから当然か。
「特殊個体のオーガだけど、なんか様子がおかしかったんだ。なんていうか、物理耐性だけじゃなくて、もっと別の何かがある感じだった」
「ふむ……とりあえずお医者さんに聞いてみるってこと?」
「そんなところ」
俺はそう言って、頭をかく。
「休みなしで悪いけど、一度王都に戻ろう」
振り返り、リエトン伯爵に頭を下げる。
「今日はありがとうございました。すみません、ゆっくりしたかったんですけど……バタバタした感じになっちゃいまして」
「構わないッッッ! また何か分かれば私にも教えてくれッッッ! その時にでも、食事をしようッッッ!」
「よろしくお願いします」
ふう、と息を吐いて俺は踵を返す。
「それじゃあ、王都に戻ろう。んで、クソ医者に尋問だ」