36.試されている
物理耐性を持っているから、通常種とは様子が違う。
そういう単純なものではない。
まだ、そちらの方が俺は良かった。
『ア゛ア゛ア゛ア゛……』
なんだあれ。
五体のオーガは棍棒を持ち、森の中を静かに歩いている。
歩いているのだが。
まるで、意識が感じられない。
ただ無心で、何も考えずに歩いているように見える。
なんていうか……脳が機能していないみたいだ。
大げさだったり、少し頭の悪い表現かもしれないが、俺にはそう見えた。
そして、リエトン伯爵もそう思ったらしい。
「さながら人形だな。目の焦点があっていない」
「不気味……ですね」
本当に奇妙だった。
額には、何か紋章のようなものが刻まれている。
……あのクソ医者。どういう意図でこの依頼を俺に任せたんだ。
欲しい素材があるとか言っていたが、今思えば素材の名前なんて聞かされていない。
ただ教えられているのは、物理耐性を持っていること。
そして、俺を試すようなことを言っていたこと。
たっく……これは試されてるって考えた方が良さそうだな。
クソ医者は何かを知っている。
『ア゛ア゛』
瞬間、焦点があっていない目が俺たちに向けられる。
「――気づかれたぞッッッ!!」
「やってやる!」
俺たちは陰から飛び出し、オーガの前に立つ。
オーガたちはゆらゆらと俺たちのことを様子みしているようだった。
本当に気味が悪いな。
「まずは私がやろうッッッ!!」
「――リエトン伯爵!?」
まさかこの状況でリエトン伯爵が動くとは思わなくて、俺は動揺してしまう。
相手は物理耐性を持っているってのは分かっていることだ。
なのに、拳だけで挑むのは危険すぎる。
しかし、今から俺が援護するのは不可能だ。
今魔法を放てば、リエトン伯爵も巻き込んでしまう。
「はッッッ!!」
リエトン伯爵の一撃がオーガに当たる。
空気が振動したのが分かった。
かなり強力な攻撃だ。
が、オーガは微動だにしない。
じっとリエトン伯爵を見下ろした後、棍棒を振るう。
「むッッッ!!」
咄嗟にリエトン伯爵は防御姿勢を取り、棍棒を腕だけで防ぐ。
そして、バックステップしながら俺の隣に待避してきた。
「はははッッッ!! 無理かッッッ!! そうかそうかッッッ!!」
ガハハと笑いながら、リエトン伯爵は腹に手を当てて笑う。
しばらく笑った後、ふうと息を吐いて俺のことを見てきた。
「これはあまり楽観視できないようだ。カイル、任せた」
「……分かってます」
クソ医者が俺を試そうとしているのは分かった。
ならば、俺は全力で応えてやろう。
その後は、クソ医者が持っている情報を聞き出す。
俺がやるべきことはこれだ。
「あまり魔法は慣れないんだけど……」
深呼吸。
相手を見据え、手のひらを構える。
簡単な魔法でいい。
俺のステータスはぶっ壊れている。
だから、自分ができる全力をぶつけるだけでいい。
「《ファイア》」
詠唱をすると、火花が手のひらで散る。
火花は玉となり、収束していく。
次第に大きな塊となり、俺の目の前には巨大な玉が生まれていた。
「な……カイル……君は、こんな魔法まで……」
指を弾いた瞬間、巨大な炎の玉がオーガへと直進していく。
地面をえぐり、空気を熱しながら進んでいく。
勝負は一瞬だった。
たとえ、相手は物理耐性を持っているだけのオーガ。
魔法には弱い。
俺が瞬きをする頃には、オーガたちの姿は跡形もなかった。
「素材回収は、別にしなくていいか。てか、残ってないしな」
パチパチと焦げる音がする森の中、俺は手を払う。
「リエトン伯爵。ひとまず帰還しましょう」
「わ、分かった」
さて、クソ医者は一体何を知っているんだ。
このオーガたちはなんだったんだ。
俺は歩きながら、そんなことを考えていた。
さて、これにて第三章完結です!ここまで連載することができたのも、読者の皆様のおかげです!
大きな謎が出てきましたね……!これからどうなるのか、お楽しみに!
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