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35.筋肉襲来

「ふはははははッッッ! 会いたかったよッッッ! 否、相対しかたっと言うべきかねッッッ!?」


 俺と目が合うなり、こちらに走ってくる。


 咄嗟に避けようとするが、相手は筋肉の塊。


 威力も素早さも桁違いである。


「う……嘘だろ……」


「捕まえたぞッッッ! 筋肉に見蕩れて反応が遅れたかッッッ!?」


「うわぁ……」


「救えませんね……」


 俺は大胸筋に顔面を埋めた状態で、ピクピクと動くことしかできなかった。


 クソ……事実、突然の筋肉に動揺していた。


 普段であれば、こんな勢い任せ――筋肉任せな突撃も避けることができるのに……。


「は、離してくれ……!」


「うおおおおッッッ! すごい力だなッッッ! 思わず君を解放してしまったッッッ! さすがは私が認めた友人だッッッ!」


 どうにか空いた手でリエトンの腕を無理矢理引き離す。


 俺のステータスが人間を逸脱しているおかげで、どうにか解放してもらうことには成功した。


 今日に限って言えば、人間を逸脱していてよかったなと思う。


 多分、普通の人間ならば圧死していた。


 大胸筋で圧死していた。


 あまりにも悲惨な事故である。


「ぜぇ……で、リエトン伯爵はどうしてこんなところに?」


 息を切らしながら、リエトン伯爵に聞いてみる。


 すると、彼は少し困った表情を浮かべて答えた。


「この辺りに特殊個体のオーガが現れたと聞いてな。このままでは村人が危ないと思い、私は戦いに来たわけだ」


「リエトン伯爵の場合、ただ手合わせしたいだけのようにも感じるんですけど……」


「それもあるなッッッ! 民を救うことができる上に、己の限界もしれるッッッ! 最高じゃないかッッッ!」


 リエトン伯爵は相変わらず上裸でポーズを取る。


 本当にこの人はぶれないな。


「いや、でも今回のオーガは物理耐性持ちって聞きましたが……物理で戦うリエトン伯爵とは不利な気が……」


 そう言うと、リエトン伯爵は驚愕する。


 俺の肩を掴み、何度も揺さぶってきた。


「それは本当かッッッ!? つまり私の攻撃は全て無効になるとッッッ!?」


「は、はい。多分、そうなるかと」


「な……なんだと……? 私の攻撃が効かない相手だなんて……なんてことだ……」


 あからさまに落ち込み、床にしゃがみ込む。


 しかし、ここの領主ですら今回のオーガが『特殊個体』であるとしか知らないのか。


 『物理耐性』を持っているというのを知っていたクソ医者は案外すごいのかもしれない。


 どうやら、情報を色々と持っているというのは嘘じゃないようだ。


「……分かったッッッ! ならば私は筋肉の限界に挑戦しようッッッ!」


「……え?」


 突然起き上がったかと思うと、俺に腕組みをしてくる。


 あまりにも唐突に元気になったもので、少し動揺してしまう。


「物理耐性を持っているのだろう? ならば、私の筋肉がその物理耐性を破壊できるのかチャレンジしたいと思ったのだッッッ!!」


「マジッすか……」


「パワフルー!」


「リエトン伯爵さん、すごいですね!」


 伯爵の宣言に、女性一同は騒ぎ出す。


 もう、彼が上裸であることには慣れたらしい。


「この様子だと、君もオーガを倒しに来たのだろうッッッ! 場所は私が把握しているッッッ! 共に戦場へ行こうではないかッッッ!」


 そして大胸筋に挟まれる俺。


 背負われ、リエトン伯爵が俺を運んでいく。


「ああ!? また!?」


「それ……速いんですって!!」


 二人がどんどん遠ざかっていく。


 ああ、俺またリエトン伯爵と二人きりなのか。


 これだと、リエトン伯爵と何かするってなったら毎回二人きりなんだろうな。


 嫌だなぁ……。


 二人を試すこともしなきゃいけないのになぁ……。


 まあ仕方がない。


 これに関して言えば、避けようがない。


 ならば俺は運命を受け入れよう。


 運命と相対してやろう。


 ただし、リエトン伯爵と相対するのだけは嫌だ。


 死ぬ。


 ◆


「森だぁ……」


「はははッッッ! 森だなッッッ!」


「めっちゃ森だぁ……」


「素晴らしい森だなッッッ!」


 森にたどり着く頃には、俺の魂は抜けかけていた。


 常に暑苦しい筋肉に圧迫されていると、多分どんな人間でもこうなる。


 確かに一定のニッチな層には需要があるかもしれないけれど……。


 残念ながら俺はそんなニッチな層じゃない。


 しばらく運ばれていると、突如リエトン伯爵の動きが止まる


 そして、俺を地面に下ろした。


「この辺りだ。さすがの私も、少し静かにする」


「は、はい」


 リエトン伯爵が黙るの、なんか新鮮だな。


 いつもこのくらいのテンションだとありがたいんだけど。


「しっ!」


「うお」


 ばっとリエトン伯爵が腕で遮ってくる。


 彼が見ている方向を見ると、オーガの姿があった。


 五体、しっかりいる。


 いるのだが。


「様子がおかしい……」


「そう、ですね」


 普通のオーガとは明らかに様子が違った。

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