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34.愛ぃ……

「こんなにご飯食べても何も言わないんですね!」


「……ああ」


「トリュフぅぅ!! あとフォアグラ!! いいよねカイル?」


「……ふぅぅ。お前たちの金だしな」


「やったー!」


「わたしもわたしも!!」


 楽しそうに食事を取っている二人を、俺はなんとも言えない目で見ていた。


 今回ばかりは彼女たちを止めることはできない。


 だって、俺膝枕してもらったし。


 こんなにも若い子に膝枕してもらうってさ、俺くらいの歳になるとお金取られるよ。


 文句言えないよ。


「美味いし」


 俺も食ってるし。


 ◆


「そろそろだよ~」


「ん……ああ」


 眠っていると、エリサの声が聞こえた。


 体は相変わらず馬車に揺られている。


 俺はゆっくりと腰を上げ、辺りを見てみる。


「森に一番近い村に到着ですね!」


「意外と早かったな……って、俺寝てたしそうでもないか」


 ぐっと伸びをしてみる。


 心なしか、腰へのダメージはあまりない。


 恥ずかしがっていたけど、案外膝枕も悪くないな。


 ……とはいえ、俺みたいなオッサンがこんなにも若い子に膝枕されてたら犯罪臭が否めないけど。


「エリサは膝、大丈夫なのか」


「大丈夫だよ! ほら!」


 エリサが立ち上がってみせる。


 うん。ピクピクと震えてる。


 やっぱり無理をしてたよな。


 というか、何時間も膝枕してたらそりゃ痛める。


「お前……大丈夫か?」


「全然大丈夫だよ! 愛! 愛の力が私たちにはあるから!」


「愛ぃ……」


 この子、ひょっとしなくてもヤバいんじゃないのか。


 こんなオッサンに愛を感じてどうする。


 いや、違うか。


 オッサン気にしすぎた。


 この子が言っている『愛』は『好』ではなく『友』なんだ。


 友達にそこまでのことをするか聞かれると……まあ最近の若者は分からないという結論に至るのだが。


「わたしも全然大丈夫ですよ! それこそ丸一日、二十四時間でも構いません!」


「ああ! それなら私は四十八時間!」


 最近の若者はすごいなぁ。


 オッサンの時代、そこまでするやついなかったよ。


「あのぉ……到着ですが……」


 御者さんが申し訳なさそうに顔を覗かせてくる。


 やべ。


「あ、すみません! お騒がせしました!」


 俺は慌てて二人の手を引き、馬車から飛び降りる。


 これ以上恥ずかしい思いを彼女たちにさせるわけにはいかない。


 まあ俺も恥ずかしいからって本音はあるんだけど!


「ちょ、ちょっと!?」


「早いです!!」


「あ、ごめん」


 振り返ってみると、二人が肩で息をしながら地面を眺めていた。


「大丈夫……?」


「カイルのステータスと……私たちのステータスは全く違うんだよ……!」


「わたしたち、人間! カイルさん、化け物!」


「ああ……はは……ごめん。でもそれはそれとして、俺は化け物じゃない。人間だ」


 ユイの頭をこつんと叩き、俺は周囲を見渡す。


 とりあえず場所が分からないから、この村のギルドにでも聞きに行かないとな。


「よし、お前ら。ギルドの場所を探そう」


「見つければいいんだね!」


「了解です!」


「おうおう。元気がいいのはいいことだ」


「先に見つけた方がカイルさんに抱きつきましょう!」


「いいねそれ! 決めた!」


 おうおう……?


 お前らは一体何を言っているんだ。


 この子たち、だんだんと行動がエスカレートしていってないか?


 最初、こんな大胆な子たちだったっけ。


 もっと清楚で、活発で元気な女の子たちってイメージだったんだけど。


「それっじゃあ開始!」


「行きますよ!」


 そして、速攻消える二人。


 ……まあいいや。


 オッサンは若者に振り回されているうちは幸せなんだろう。


「見つけてきた!」


「見つけてきました!」


「本当に早えな」


 近くの椅子に座ろうかと悩んできたところ、二人が全力ダッシュでこちらまでやってきた。


「どっちが早かった!?」


「わたしですよね!?」


「いや……同タイミングだと思うな」


「ええ!? ということは!?」


「どうなるんです!?」


「また今度な。んじゃ、場所教えてくれ」


 パンと手を叩いて二人に聞いてみると、あからさまに不機嫌になる。


 俺のことをじっと見てきた後、お互いがお互いのことをディスり始めた。


「まあまあ。また今度付き合ってやるから」


「信じてますよ!」


「覚えてるからね!」


「はいはい。オッサン覚えてるよ」


 流しながら、彼女たちの背中を叩く。


 二人は少し頬を膨らませた後、道案内を始めてくれる。


 ついて行ってみると、意外とギルドは近くにあったらしい。


 村の広場を抜けて、すぐにあった。


「お! サンキューな!」


「えへへ! いいんだよ!」


「当たり前のことですから!」


 全く、とはいえ彼女たちは可愛いものだ。


 オッサンの俺は癒やされてばかりだよ。


「んじゃ――」


 ゆっくりと扉を開いた瞬間、俺の目に飛び込んできたのは上半身裸のムキムキマッチョだった。


「おおッッッ! カイルじゃないかッッッ! 私だッッッ!」


 見間違えるわけがない。


 あの筋肉は間違いなくリエトン伯爵だ。


 

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