33.空を見上げれば
「馬車……自腹だな」
王都の広場には、馬車が数多く集まる場所がある。
そこにやってきた俺たちは、リエトン伯爵領へと移動する馬車を探していた。
前回はギルドに用意してもらったが、今回はギルドからの依頼ではない。
そのため、馬車は自分たちで手配しなければならなかった。
「完全に忘れてたわ。依頼が終わったらクソ医者に馬車代を請求しよう」
「こんだけお金があるからいいんじゃない!」
「ですです! カイルさんは気にしすぎですよ!」
「俺もさ、こんなことはしたくないよ。でもすまない。俺はあのクソ医者にサービスする意思は微塵もないんだ」
「そんなに嫌い?」
「嫌い」
「どう思ってるのです?」
「死ねばいいんじゃないかなと思ってる」
そう言うと、二人は顔を見合わせて苦笑する。
なんだ……俺が変なことを言っているみたいじゃないか。
でもさ、余命宣告された時もだしさ。
俺にオーガ討伐を頼む時もさ。
めっちゃ酷かったじゃん?
俺はヤバいと思うよあいつ。
この二人は平気そうだけどさ、当事者は違うんだ。
彼女たちもきっと分かる時が来る。
「……」
何かこの子たちが軽い病気したら、あの病院に連れて行こう。
そうすればきっと、あのクソ医者が『本物』だって理解するはずだ。
「あ! 見つけたよカイル!」
「御者さーん! わたしたち乗ります! 三人です!」
二人が馬車に駆け寄り、お金を手渡す。
支払いが終わったのか、こちらに向いて手を振ってきた。
「はいはい」
俺は彼女たちに促されるまま、馬車に乗り込む。
「ここから二日か。一泊する場所はあるけど、また腰をやりそうだなぁ……」
座る場所も堅い材質だし、全然オッサンに優しくない。
想像するだけでため息が漏れる。
馬車が動き出し、俺はガタガタと揺られる。
「ねえカイル! やっぱり腰、やっちゃいそう?」
「ああ……多分やるな。その時はお前に簡単な処置をしてもらうよ」
答えると、エリサはふむと考える素振りを見せる。
「それじゃあさ! 私が膝枕してあげるから、寝転がったらいいじゃん!」
「は、はあ!?」
「何を言ってるんですかエリサさん!?」
しかし、エリサは満面の笑みで後ろを見る。
「客席も二列あるし、お客さんは私たちだけ。ユイには申し訳ないけど、私たちは後ろの席に移動するね!」
「はぁ!? いや、ちょっと!?」
「エリサさん!? ええ!?」
俺はエリサに手を引かれるまま、後ろの席に移動させられる。
そして、俺は空を見上げることになった。
頭には、柔らかい足が当たっている。
いや、訂正しよう。
俺は正しくは空を見ていない。
見えるのは……胸だ。
エリサって意外と胸があったんだなぁ……。
「って、オッサンに何してんだよお前! 本当に!」
「いいじゃん! これで腰はやらないでしょ?」
「いや、でもなぁ!」
「……嫌?」
俺が起き上がり、彼女に説明しようとしていると、涙目でこちらを見てくる。
そんな顔されると……俺、これ以上言えないじゃん。
「ユイ……お前は構わないか」
「……帰りはわたしがしてもいいのであれば」
「お前も何を言っているんだ?」
オッサンを膝枕して何が楽しいんだ。
「ってことだから! カイルは私の膝枕でのんびりしましょうねぇ!」
「うぐっ!?」
エリサに頭を思い切り掴まれ、強制的に膝枕の体勢になる。
見えるのは……胸。
「……寝よう」
オッサンは全てを諦めて寝ることにした。




