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32.ギャンブルすんなよ

「お前ら……速いっての!」


「カイルが遅いんだよ! こういう時は速攻行動しなくちゃいけないんだよ!」


「ですです! だってわたしたちは……ねえ!」


「ねぇー!」


 二人が顔を見合わせて、満面の笑みで楽しそうにしている。


 全く、二人は若すぎるんだよ。


 俺のことを一切気にしていない。


「あのなぁ……俺は一応三十のオッサンなんだぜ? 少しは労ってくれてもいいんじゃないのか?」


「カイルに限って気にする必要ある?」


「だって……人間を逸脱しているじゃないですか」


「それはそうだけど」


「体力、減ってる?」


「減ってないけど……」


「ならまだ頑張れますね!」


「……はぁ。若いやつには敵わねえな」


 特に若い女の子。


 俺は絶対勝てないよ。


 口で勝負したら間違いなく負ける。


 でも少しはオッサンを労る心を持ってくれてもいいと思うんだけどな。


 嘆息しながらもギルド前に着いた俺たちは、ドアをくぐる。


 相変わらず騒がしいギルドの中を歩いていると、多くの冒険者の視線が俺に集まった。


「なんだぁ?」


 なぜかめちゃくちゃ見られてる。


 俺、変な格好でもしてるかな。


「なあ。俺って変だったりする?」


「いやぁ? 別に」


「いつも通りイケオジですよ?」


「お、おう」


 こいつらは隙あらば俺のことを褒めるんだから。


 オッサン、でれちゃう。


 いや、自分で言ってて恥ずかしくなった。


 さっきの妄想は前言撤回。


 まあ嬉しいことには変わりないけど。


 んじゃあ、他の冒険者さんらは俺のことをどうしてじっと見ているのか。


 別に気にすることでもないか。


「受付嬢さーん。戻りましたよー」


 カウンターに顔を出して、奥にいるであろう受付嬢さんに声をかける。


 しばらく待っていると、走ってくる音が聞こえてきた。


「カイル様! おかえりなさい! 生きてたんですね!」


「なんですか急に。生きてたんですかって言い方、おかしくありません?」


「いやぁ……カイル様があの依頼を受けたって噂、一瞬でギルド内に広がりましてね」


「ほう」


「さすがにカイル様でも死ぬかもしれないって、皆様生きてるか生きてないか、ギャンブルをしていたんですよ!」


「はぁ!? そんな不謹慎なギャンブルしないでくださいよ! だからめちゃくちゃ冒険者さんらが俺のことを見てきたんですね」


「ちなみに、私は生きている方に賭けてましたよ! いやー、勝ったお金で今日は焼き肉ですね!」


「受付嬢さんは参加しちゃだめでしょ! 止めてくださいよ!」


「たまにはお茶目をしてもいいかなと思いまして! てへ!」


 受付嬢さんが舌を出しておどけてみせる。


 まさかこんなキャラだったなんて思いもしなかった。


 ……俺の生死でギャンブルされるなんてたまったものじゃないな。


「ともあれ、帰ってきたってことは依頼、達成したってことですね!」


「はい。無事、魔王軍幹部をぶっ倒してきましたよ」


 俺はそう言いながら、両隣に立っているエリサとユイの頭に手を置く。


「この子たち、めちゃくちゃ活躍してましたよ。おかげで無事、達成できたってところです」


「私たち何もしてないよ!?」


「してないです!!」


「しー……! こういう時は静かに頷いとけばいいんだよ」


 せっかく彼女たちの評価を上げようとしたのに。


 しかし、はっきりと違うと言えることは素晴らしいと思う。


 まあ、立ち回りは下手くそだけどな。


「ふふふ。いいパーティーですね」


 受付嬢さんにも笑われてしまう。


 俺は少し恥ずかしく思いながら、頬をかく。


「さてさて、それでは報酬金ですね」


「あ、それに関しては大丈夫ですよ! 国王様から直接貰いましたんで!」


「それは多分おまけですね。形式上、ギルドからの依頼はギルド側がお支払いすることになっていますので」


 そう言いながら、受付嬢さんが麻袋を取り出す。


 たっぷり金貨が入ったものだ。


「え、ええ」


 俺は手渡された麻袋を持ち、困惑してしまう。


 これ、本当に貰っていいのか?


「おおおお!! お金だぁぁぁぁ!!」


「やったー! 国から貰ったのと……ギルドから貰ったのがあれば……美味しいお肉がたくさん食べれます!」


 麻袋に胸を躍らせた二人は楽しげにご飯の話をしている。


「お前ら……もしかしなくても、一夜で全部使う気だな?」


「当たり前じゃん! こんな大金蓄えても仕方ないよ!」


「貯金なんてしなくても、案外どうにかなるものですよ!」


「……はぁ。まあ、お前らが稼いだお金ってことにするから好きに使ったらいいよ。でも、少しはお金の使い方を――」


 一つ説教をたれようかと思ったが、俺の麻袋を見ながらニヤニヤしていた。


 これ、意味ねえな。


「全く……」


 嘆息しながら、彼女たちに麻袋を手渡す。


「んじゃ、クソ医者の依頼を達成したら美味い飯でも食べに行くか」


「食べる!!」


「速攻クリアしましょう!」


 わいわい騒ぐ二人を見ていると、改めて俺は歳を食っちまったんだなと認識する。


 昔と比べて、オッサン臭くなっちまった。


「あら、またお仕事ですか?」


 カウンターから顔を出して、受付嬢さんが小首を傾げる。


「ああはい。近くの町医者から直接依頼がありまして」


「なるほど! ……大体察します」


「あはは……本当に」


 色々とこちらにもメリットはあるが、あのクソ医者の言うことを聞くのはなんだか憂鬱だなぁ。

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