31.都合のいいときだけクソ医者を認めるなよ
「どうですか? やばいでしょう?」
クソ医者が指を立てる。
「俺の魔法……壊れちゃってる……」
「あなたが壊れているんですよ」
クソ医者が腰に手を当てて微笑を浮かべる。
「俺が壊れているのか……」
「やはり人権は適用されないってことになりますね」
クソ医者がこちらに向かってダブルピースをしてくる。
「なあお前、嘗めてる? ふざけてるよね?」
「いやいや、ふざけてなんかいないですよ。ちょっとポーズを取っているだけです」
「それをふざけているって世間的に言うと思うんだけど、お前の中にある常識ぶっ壊れているんじゃないのか?」
「クソ医者ですから」
「都合のいいときだけクソ医者を認めるなよ」
「それが人間ですから」
「お前みたいなやつが人間判定になるなら、俺は人間じゃなくていいわ」
「なら人権は必要ないですね」
「それは別だ」
そう言いながら、俺は大きく息を吐く。
「さっきの魔法、すごすぎるわよ!」
「岩が消滅しましたよ!?」
「ああ。俺もびっくりだ」
嘆息しながらも、興奮している二人に笑顔を向ける。
ともあれ、俺は一応魔法が扱えることが分かった。
クソ医者にはムカつくが、感謝してもいいだろう。
手に付いた汚れを払いながら、クソ医者を一瞥する。
「んで、報酬はなんだ?」
もちろん俺はタダで依頼をこなすなんてことはしない。
依頼というものは、報酬金があってこそ責任が発生するものだ。
その辺りははっきりとしておきたい。
「もちろんあります。お金ではないのですが、豪華な特典を考えていますよ」
「ちなみに特典って?」
尋ねると、クソ医者は満面の笑みで答える。
「診察料全額無料キャンペーンを――」
「いらねえ。帰るぞお前ら」
「冗談ですよ。そんなすぐ帰らないでくださいって」
「俺たちは暇じゃねえんだよ。な、二人とも」
「そうです! カイルさんを診察してくれるのは感謝していますが、わたしたちも立派な冒険者ですから!」
「そうだよ! そこら辺勘違いされると困るなぁ!
「すみませんって。冗談ですよ冗談」
慌てながら、クソ医者が訂正してくる。
全く、仕方がない人だ。
「本当の特典というのは、あなたたちに様々な情報を提供することです。こう見えて、私は様々な患者さんを相手していますし、色々と人脈がありますから、マル秘情報もたくさん入ってくるんですよ」
そう言いながら、クソ医者は指を立てる。
「国王様が悩んでいることも知っています。大方、あなたは国王様の依頼をこなした実力者ですから、何か大きな頼み事でもされたんじゃないですか」
「……それは」
「当たりですね」
なんだかな。
このクソ医者は勘だけはいい。
「悪くないとは思いますが、いかがでしょうか」
「……分かった。引き受ける。二人もそれでいいか?」
「私は大丈夫! 目標のためなら頑張ろう!」
「わたしもです!」
「だそうだ。んじゃ、オーガ特殊個体の討伐は引き受ける。ちなみに、場所はどこなんだ」
「場所はリエトン伯爵領付近の森ですね」
「ああ……リエトン伯爵の近くか」
「挨拶に行きます?」
「余裕があったらな。なんせ……前回の遠征で俺の腰が破壊されたし」
挨拶したい気持ちもあるが、前みたいに腰が破壊されている可能性がある。
申し訳ないが、余裕があったらにしよう。
「挨拶と言えばだ。俺たち、まだギルドに依頼を達成したこと報告してないから、そっち優先しないと」
「あ、そうだったね! 完全に忘れてたよ!」
「早く行かないとですね!」
「おいおい! 待てって!」
そう言いながら、二人は急ぎ足で町の方へと走っていく。
一人――いや、一人とクソ医者のみ残された草原にて、俺は大きく息を吐いた。
「充実しているようで何よりです」
「……そりゃどうも」
言いながら、彼女たちの背中を追いかけた。