30.ほらね? やばいでしょ?
「あなたレベルなら余裕ですよね?」
「俺を化け物か何かだと勘違いしていませんか?」
「人間は逸脱してますよ?」
「俺は人間ですよ?」
「私的には人外判定ですね」
「だから物理耐性持ちのオーガ五体を相手にさせてもよいと?」
「いいんじゃないんですかね」
「俺は一応人間だから人権とかあると思うんですけど」
「私的には人外なので、人権的なものは排除されますね」
「よし決めた。お前は今日からクソ医者確定な。異論は認めない」
「酷いですね。あなたを信用して言っているんですよ。ほら、あなたってオーガをワンパンしてたじゃないですか」
クソ医者は指を振りながら、笑顔で言ってくる。
これからは心の中でもしっかりクソ医者と呼ぶことにした。
多分、これから先何があったとしてもクソが外れることはないだろう。
「まあ確かにワンパンしてたけど……俺がやってたのは普通のオーガだしな」
俺がこのクソ医者に掛かる前に倒したのは物理耐性など持っていない個体である。
いつもは素手でぶん殴っているから、物理耐性を持たれていると対処のしようがない。
「あれ。倒せないんですか?」
「多分無理なんじゃないか。だって俺の戦闘スタイルって物理だし」
「いや、絶対大丈夫ですよ。だってあなたの魔法攻撃のステータス覚えてます?」
「覚えて……確か一万超えてたっけ?」
「超えてますね」
「俺って簡単なファイアとかしか使えないんだけど」
「ファイアは下級魔法ですが、あなたが使ったら神話級になるかもですね」
「マジ?」
「室内で試さないでくださいね。多分病院が跡形もなく消えます」
俺が最後に魔法を使ったのはずいぶん前のことである。
弱い魔法しか使えなかったから、次第に武器で対処するようになった。
次第に武器も必要なくなったから、俺は素手を使うようになった。
クソ医者が言っているとおり、今魔法を使ったらヤバいんじゃないのか?
「ねね! カイルの魔法見てみたい!」
「使ってみてくださいよ!」
エリサとユイが興味ありげに聞いてくる。
「そ、そうか。見てみたいか」
若い子に言われたら、なんだかオッサン頑張りたくなっちゃうな。
「私も見てみたーい」
「いい歳してかわいこぶるなよクソ医者。醜いぞ」
「失礼ですね。まあいいです。それじゃあ試してみますか?」
そう言いながら、クソ医者が窓の方を指さす。
「近くの平原で試し打ちでも」
「……どうする二人とも」
「見たい!」
「です!」
「しゃーねえ。んじゃ、試してみるか」
♦
「それじゃあ、あの岩に向かって放ってみてください」
平原まで出てきた俺たちは、クソ医者に言われるがままに大きな岩の前に立った。
クソ医者は岩をぽんと叩いた後、俺の隣まで走ってくる。
「並ぶなよ」
「いいじゃないですか。近くでみたいんですよ」
不満である。
が、まあ仕方がない。
とりあえず簡単なファイアでも放ってみるか。
久しぶりだなぁ、魔法なんて使うの。
ま、所詮下級魔法だ。
頑張っても岩を破壊する程度だろう。
「《ファイア》」
俺がそういった刹那、手のひらで光りが収束する。
空気を震わせ、手中が歪んで見えた。
瞬間。
――バゴォォォォォォォォォン!!
「は……?」
爆裂音とともに、地面がえぐれ、あまりの熱さに視界が歪んだ。
岩は跡形もなく消え去り、土は灰と化した。
「ほらね? やばいでしょ?」
その様子を見たクソ医者が、俺にウィンクをしてきた。