25.構えろ
「英霊の墓場かぁ。すごい場所を拠点にしているのね」
「ああ。どうやらその場所は、そいつのせいで立ち入りも禁止されているらしい。おかげで遺族たちは不安がっているそうだ」
「……どうにかしないとですね」
「本当にどうにかしないといけない。拠点にしているだけでもヤバいのに、死者も出ている。このまま放置していると王都にまで被害が及ぶのは間違いないだろう」
ギアンがやっていることは許されないことだ。
魔王軍の目的もそうだが、何より死者が出ている。
人を殺した魔族は、人類の敵だ。
すぐさまに対処しなければならない。
「そろそろか」
馬車で揺られる体を動かして、小窓から外を眺める。
そこには、数多くの墓が立ち並んでいた。
墓場で形成された草原とも言える。
これほどまでの英霊が祀られているなんて、本当に大規模なようだ。
「カイル様。私が運べるのはここまでです」
「ああ――」
御者の声に返事をしようとした瞬間、体が大きく揺れる。
「なんだ!?」
いや、違う。
体が揺れているのではなく、正しくは馬車が揺さぶられているんだ。
「キャっ!?」
「や、やばいって!!」
エリサとユイの悲鳴が聞こえる。
すぐに助けようと手を伸ばすが、また一際大きな揺れが発生する。
「クソ……これ、ダメなやつだ!!」
俺が叫んだと同時に、体が宙に浮く。
轟音とともに、先程まで天井だった場所に体が叩きつけられた。
「っ……! お前ら、大丈夫か!!」
「私たちは平気。どうにか防御魔法を展開できた」
「エリサのおかげで、わたしも大丈夫です」
二人はどうやら無事らしい。
俺は逆さまになった馬車をはいながら、御者席を覗く。
ダメだ、御者さんがいない。
「……先に発見されたか。最悪だな」
どうやら、相手の方が先に襲撃に対して感づいたらしい。
「エリサ、ユイ。動けるよな?」
「うん!」
「はい!」
俺は頷いた後、壊れた馬車の扉を思い切り殴る。
扉を破壊し、どうにか外へと飛び出す。
上がった息を整えながら、周囲を見た。
十字架で埋め尽くされた草原。
普通とは違う、異様な光景に俺は息を飲む。
「戦闘体勢に入ろう。ここは危険だ――」
そう言おうとした刹那、体に強い衝撃が走る。
ただの攻撃なら耐えられたが、半ば吹き飛ばされる形になってしまって、俺は耐えることもできずに吹き飛ばされる。
「あがっ!?」
十字架を破壊しながら、俺は吹き飛ぶ。
「カイル!!」
「カイルさん!?」
どうにか剣を引き抜き、地面に突き刺して無理やり停止する。
「ふう……ヤバかった」
よろめきながらも、どうにか立ち上がる。
「やっぱりスキル、やべえな。これでも無傷だ」
「本当にすごいね。僕の攻撃を受けても、傷一つ付かないなんて」
「っ!?」
背後から声が聞こえたかと思うと、肩を掴まれる。
恐る恐る振り返ると、大きな二つ角を生やした少年がいた。
「ま、人間なんて所詮下等生物。魔王軍幹部である僕には絶対に勝てないんだけど」
俺は咄嗟に手を振り払い、構える。
「おいおい。僕に勝てると思って拳を構えているの? なんだいそのひ弱そうな拳は?」
「……てめえが、ここを拠点にしている魔族か」
「そうだけど?」
「てめえは、人間を殺したんだよな?」
「殺したよ? ついさっきも殺した」
「何か言いたいことはあるか?」
「人間風情を殺しただけなのに、そんなに怒っている君は哀れだな……かな?」
俺はぐっと拳を握り、ギアンを見る。
「エリサ、ユイ。構えろ」
「わ、分かった!」
「はい!」
俺は相手を見据え、唇を噛み締める。
「ギアンをぶっ倒すぞ」