24.命令
「国家最強の部隊を倒すなんて! やっぱりカイルは最強を超えし最強だね!」
「やっぱりカイルさんのファンでよかったです! カイルさん最高!」
「ふふふ。皆さんカイルさんのことが大好きなんですねぇ」
「お前ら……ひとまず落ち着け」
俺は嘆息しながらも、内心こうやって喜んでくれる二人が可愛くて仕方がなかった。
なんというか、微笑ましいんだよな。
やっぱり俺、オッサンになっちゃったな。
まあ、普通は冒険者なんて引退している年齢だし。
「それで、お主が我に話したいこととはなんなんだ?」
国王様は俺の方に視線を向けて、興味深そうに尋ねてくる。
俺は半ば緊張しながらも、姿勢を正した。
「この宮廷に所属している、聖女ルルーシャさんに用があるんです」
「ほう……? 聖女に用があるのか。それはどうしてだ?」
「魔族の呪いによって、俺の命は後一週間しかないのです。死を回避する方法はただ一つ。呪いを解くこと。しかし、この呪いを解除できるのは、この国にはルルーシャさんしかいないんです」
「なるほど。それでお主は宮廷にわざわざやってきたのか」
国王様は静かに頷き、視線を俺の後ろにやる。
「ルルーシャ、君はどう思う」
「え……?」
急に聖女の名前が国王様から出たことに、俺は驚いてしまう。
それも、明らかに聖女本人に聞くような言い方である。
俺は恐る恐る振り返ると、お面を被った女性は頬を突いていた。
「んー。カイルさんを失うのはこの国にとって大きな損失になりえますし、呪いを解除してもいいですねぇ」
「え、えええ。あなたが聖女ルルーシャさんなんですか!?」
「あれぇ。気がついていなかったんですかぁ? 私、かなり有名な方だと思うんですけどねぇ」
全く気が付かなかった。
というか、お面を被っているなんて話聞いたことない。
「え!? 私の隣にいるの聖女さんなの!?」
「マジですか!? 畏れ多い!」
二人は慌ててルルーシャさんから距離を取る。
「まぁ。少し悲しいですねぇ」
その様子を見てか、残念そうにするルルーシャさん。
しかし、すぐに切り替えて俺の方を見てきた。
「その呪い、解除してあげてもいですよぉ」
「ほ、本当ですか――」
興奮気味に返そうとした瞬間、俺の唇に指が当たる。
「お、おお……」
「ああ!?」
「ええ!?」
ルルーシャさんの指だった。
ルルーシャさんは腰を曲げて、俺の唇に指を当てている。
なんだこれ……オッサン、ときめいちゃいそうになった。
この歳で乙女心が発現しそうになったぞ……。
「でも、無償で解いてあげるのは違う気がするんですよねぇ」
そう言いながら、ルルーシャさんは俺の肩に手を置く。
「もし、魔王軍幹部を倒すことができたら、お礼として解呪をしてあげます。どうでしょう?」
「や、やります! やらせてください!」
「ふふふ。そうこなくっちゃ」
ルルーシャさんは踵を返し、国王様に手を振る。
「それでは、私は仕事に戻りますのでぇ。国王様、カイルさんが魔王軍幹部をぶっ殺してきたら連絡くださいね」
「分かった。ルルーシャは仕事に戻りたまえ」
なんだか国王様とルルーシャさんの立場関係がよく分からないな。
ある意味対等なようにも思えるが。
「それではカイルよ。改めて命令する」
そう言いながら、国王様は咳払いをする。
「レイピア王国南西、英霊の墓場を拠点としている魔王軍幹部『ギアン』の討伐を頼んだ」
「「「了解しました!」」」
俺と、二人の声が重なり合った。