21.お面の女性
王都から宮廷へと向かう馬車は意外と空いている。
というのも、そもそもこの馬車に乗るには相応の許可証がいるからだ。
限られた人間しか乗れないわけで、同時に一緒に乗り合わせている人間は国家にとって重要な者が多い。
「あ、あの人見たことある!」
「有名な方ばかり……こんな方たちと一緒の馬車に乗ってる……!」
「お前ら……少し黙っとけ」
半ば興奮している二人に嘆息しながら、俺は馬車に揺られる。
俺も俺で、まあ緊張していた。
なんせ国王に会うのなんて初めてだし、何より今回の訪問で聖女と会うことができるかもしれないからだ。
聖女、ルルーシャは宮廷に所属している。
常にいるわけではないだろうが、もしかしたらがある。
馬車が止まり、乗っていた人たちがどんどん降りていく。
全員が降りたのを確認した後、俺たちも遅れて下車した。
「さすがは宮廷。近くで見ると大きいな」
俺は宮廷の巨大さに感心しながら、門の方へと歩く。
しかし案の定門番に止められていた。
「ええと、俺はちゃんと国王様に会うアポは取っているんですけど」
「そんな連絡、こちらには届いていないが。お前知ってるか?」
「いや、知らないですね。そんな報告はこちらには届いていないと思います」
「嘘だろおい……」
何故か、俺が国王様と会うという連絡が宮廷には届いていないようだった。
連絡するのはギルドの役目だから……ギルドのミスだろうか。
にしても、あの王都最大手のギルドがこんなミスをするとは思えないんだけどな。
「入れませんか?」
「無理ですかね?」
二人が困り顔で門番に聞く。
しかし、門番も困り顔で返す。
「すまないが、連絡が来ていない以上難しいな。この許可証はあくまで、宮廷に入るためのものなんだ。国王様に会うには、別途で連絡がいる」
マジかよ……ここまで来て無理だなんて。
一旦戻って、ギルドに再確認するか?
でも俺には寿命が限られている。
もしこれで数日間立ち往生なんてことになれば、俺は詰んでしまう。
本当に困った。俺、終わったかもしれない。
「あらぁ。何をされているんですかぁ?」
全員が困っていると、その間に一人の女性の声がした。
ふと顔を上げてみると、やけに綺麗な服装の女性が目の前にいた。
しかし顔は見えない。
なにやらお面のような物を被っていて、素顔が見えないようになっている。
「お疲れ様です!!」
「お、お疲れ様です!」
女性が現れた途端に、兵士たちが敬礼をする。
となると、国家の偉い人なのだろうか。
「そこまで固くならずにぃ。それで、どうなされましたぁ?」
「いや、この者たちが国王様に会いたいと」
「しかし許可が出ていないため、難しいと伝えていたのです」
「へぇ。あなたたちは……カイルさんとその一同ですかぁ?」
「は、はい。えっと俺の名前、ご存知なんですね」
「もちろんですよぉ。有名ですしねぇ。それで、国王様に会いたいんですよね?」
そう言いながら、女性はこくりと頷く。
「許可、出ていますよぉ。どうやら門番の方に連絡が行っていなかったようですねぇ」
こちらを一瞥して、くるりと踵を返す。
「よければ案内しますよぉ。付いてきてくださいねぇ」
「ありがとう……ございます」
俺はペコリと頭を下げて、彼女の後ろを追いかける。
「誰なんですかね?」
「誰なんだろう?」
「さぁ。まあ良かったじゃないか。これで国王様に会える」
俺はそんなことを言いながら、お面を被った女性の後ろを歩いた。