13.ワームとの相対
興奮収まらないといった様子のリエトン伯爵は、俺を背負いながら鉱山へと向かっていた。
「うう……筋肉で圧死する……」
「ハハハッッッ! 男を投げることはあるが、背負うのは久しぶりだなッッッ!」
しかも、めちゃくちゃ速い。人間とは思えない速度で俺は運送されていた。
「待ってよ~!」
「速すぎ……ますって……!」
ああ、どんどんエリサたちが遠のいていく。彼女たちが俺に追いつくことはもうないんだろうなぁ。
……つまりこの暑苦しい男と一緒にか。
帰りたい。
いつも女の子二人に挟まれてたのって幸せだったんだな。
なんせ、今俺が挟まれているのは筋肉なのだから。
暑いよ、暑苦しいよ。
「もうすぐだぞッッッ!」
でも速いんだよなぁ。
意外と移動手段としては便利というのは否めない。
ああ……女の子欲しい……!
……いい歳したオッサンがいう言葉じゃないけどよぉ。
♦
「こりゃ酷いですね」
「資源がワームに食い尽くされている……これに関してはしょぼんだ……」
あ、『ッッッ』がなくなった。
この人テンションの上下が分かりやすいのな。
しかし本当に鉱山は酷いものである。
そこら中穴だらけ。
いつ崩落してもおかしくないだろう。
ここ付近にも村があったから、もし崩落事故なんて発生したらかなりの被害が出る。
早急に対応しなければいけない案件だ。
「それで、一体ワームはどこにいるんです?」
今は夕方。夜と呼ぶにはまだ早い時間帯だ。
それもそのようで、ワームは活性化していないようだ。
こちらからは居場所が把握できない。
「それなら任せてくれッッッ! 私が叩き起こそうッッッ!」
そう言いながら、リエトン伯爵は鉱山内の壁を触り始めた。
「何をしてるんです?」
「ここは崩落の危機に陥っているが、的確にツボを突けばやつは飛び起きてくるッッッ!」
リエトン伯爵はすっと拳を引き、そして壁に向かって思い切り放つ。
「おおっ!? 大丈夫なんですか!?」
先程の衝撃で鉱山内が大きく揺れた。
人力で揺れを引き起こすなんて想像できないが、まあ彼ならできるのだろう。
そこら辺は深く考えなくていいと思う。
「……ッッッ! 来るぞッッッ!」
「おいおいマジで来るのか!」
俺は咄嗟にバックステップし、拳を構えた。
「ふむッッッ! 腰に下げている剣は実戦でも使わぬかッッッ! 素晴らしいッッッ!」
「まあ、これは念のためのもんなんで!」
一応剣は持っているが、普段は使っていない。
深い理由というのはないのだが、一点あげるとするならば拳の方が戦いやすいからだ。
「来た!」
正面に空いている穴からワームが飛び出してくる。
俺とリエトン伯爵は距離を取り、全貌を把握する。
「すげえ……でけえな」
「大物だろうッッッ!?」
これ、全長いくらあるんだ。
こいつをリエトン伯爵は一人で止めていたとなると、なかなか恐ろしいものだ。
「よし、やるか」
俺は頬を叩き、ワームと相対する。