125.開放感があっていいなぁ!
「うーん……! 開放感があっていいなぁ!」
海パンを履いて、海を眺めながらそんなことを思った。開放感があると言ってしまったら、どこか変質者感があるが、けれども実際に開放感があるのは間違いない。なんなら、暑い浜辺で服を着ている方がおかしいのではないだろうか。
「青い海に青い空! 細かな砂の上に立っていると熱くて仕方がないこの感覚! 本当に久しぶりだ!」
どこか少年時代に戻ったようで感慨深くなってしまう。いや~海に来て良かった。
「カイル~! おまたせ!」
「お待たせしました!」
「のじゃああ!」
振り返ってみると、エリサたちがこちらに向かって走ってきていた。俺と同じように海が楽しみだったのか、どこか楽しげに見える。
「待ってたぞ! さぁ何をして遊ぶんだ! 俺、ちょっとワクワクしちゃっててさ!」
俺のテンションはもうマックスと言ったところで、彼女たちに早速聞く。泳ぐか……それとも水をかけあおうか! 砂遊びもいいな!
「……カイル。他に言うことないの?」
エリサがじとっとした目で見てくる。ユイやダークハートもどこかむすっとしている。
あれ……? 実はそこまで他の奴らは楽しみにしていないのか……? 俺だけ一人でテンション上がっちゃっている感じ……?
「え……? いや、海……だろ? だから……海で遊ぶんじゃないのか?」
それ以外に何があるんだ……? 彼女たちは一体どうしてそんな不機嫌そうなんだ?
「水着……! 何か言うことないの!?」
「そうですよ! これを見て何も思わないんですか!?」
「そうじゃぞ! しっかり刮目せよ!」
「あ、ああ~……」
ここまで言われて、やっと理解する。そういえばこいつら、列車の中で言い争っていたよな。だから……あの……あれだ。多分俺に水着を見せて、反応対決をしようとでも思っているのだろう。すっかり抜け落ちていた。もう海が楽しみすぎて忘れてしまっていた。
「ええと……」
エリサは……薄い赤をメインとした少女らしい水着だ。特別凝ったデザインではないものの、彼女の可愛らしさを強調するならベストな一着だろう。
「ふふん! もっと見ていいよ!」
じっと観察していると、エリサが嬉しげに鼻を鳴らす。
……ユイはというと、透き通った水色をした水着だ。胸から肩にかけてフリルが着いていて、可愛さもあるが色も相まってどこか落ち着いた印象になっている。
「じっと見られるの……少し恥ずかしいですね……!」
「……なんだかな」
これ、端から見たらヤバい人達だろう。だってオッサンが若い女の子の水着をじっと見ているんだぜ。俺なら距離を取るね。
まあこれも長くは続かない。ダークハートで最後だ。
彼女はというと、黒を基調とした水着を選んだようだ。胸には紫色のリボンが付けられていて、綺麗なワンポイントとなっている。彼女の年齢を鑑みるとかなりキツい衣装なのかもしれないが、見た目は幼い少女なので問題ないのだろうが。
「ああ……! カイルが妾の水着をガン見しておる……! こ、興奮してきたのじゃ……!」
このババアがキツいのは変わりないが、まあいつものことだからツッコミするのも疲れる。俺は腰に手を当てて息を吐く。
「それでそれで! 誰が一番カイル的に良かった!?」
「誰が一番興奮しました!?」
「妾が一番性的に興奮したじゃろう! 子どもは何人作るのじゃ?」
どんどん汚くなっていく言葉。これだけ聞くと、エリサが一番少女らしくて可愛い。なんだよ残り二人の発言。ダークハートに関してはもう気持ち悪すぎて寒気がするんだが。
「三人とも素敵だと思うよ。ここは一つみんな一等賞ってことでいいんじゃないのか?」
なんてことを言うと、三人が俺を睨めつけてくる。殺意もこもっていそうな目だった。
「誰もみんな仲良し一等賞なんて求めていないよ? 私たちは一歳とか二歳の幼児なんかじゃなくて、競争を求める大人なんだからさ?」
「一位じゃなきゃダメなんですよ。確かに一夫多妻制の国もありますが、少なくともレイピア王国と魔王国はそうじゃないですよ? そもそも、一夫多妻が許されたとしてもわたしは一位がいいですね」
「この世界は一位か、それ以外か、なのじゃ。妾はそうして魔王になったし、その事実に対して疑問も抱いていない。だからのぉカイル、お主は選択せねばならぬのじゃ。女を一人選ぶしかないのじゃよ」
「……」
三人の視線が痛い。けれど、俺は本当に彼女たちには興味がないのだ。そりゃもちろん、彼女らのことは女の子だって認識しているし、可愛いところもあるとは思っている。けれど、エリサたちはもう年下にも程があるし、ダークハートに関しては論外だ。
だから……その……三人の中から選ぶだなんてこと、俺にはできない。
「そうか。選べか」
なので、俺は違う選択を取ることにした。この問いには抜け穴があるのだ。
そう、この問いは決して三人の中から選べだなんて言われていない。屁理屈ではあるが、俺にとっての逃げ道はそれしかなかった。
俺は彼女たちとは違う方向に指を差す。その方向には数人のお姉さんがいた。
「俺はあのお姉さんが一番いいかな。見ているだけで元気が出る」
どうだ……! これが俺の選択――答えだ!
ははは! 三人も目を丸くして固まってしまっている。想定外だったのだろう……くくく俺の勝ちだな。
「ふっ……だからお前らは――」
ここは一つ彼女たちを諭してやろうかとしていた刹那――エリサとユイが一気に迫ってきたかと思えば――胸を思い切り突き飛ばされ、俺は砂浜を転がった。
「ぐはっ――!?」
想定外の出来事に受け身すら取れずに、体に直接ダメージが入る。えぐい確度で砂浜に直撃したものだから、もしも俺のステータスがぶっ壊れていなかったら恐らく死んでいただろう。
俺は震えながら手を付いて顔を上げ、エリサたちを眺める。
「カイル、ギルティーだよ」
「覚悟はできていますよね?」
二人が手を突き出すと、淡い光とともに武器が現れる。そして、杖と弓をこちらに向けて構えた。