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122.魔導列車

「カイル! 会いたかったぞ! むぎゅうううう!」


「ちょいちょい……」


 まさに小動物かのように俺に飛びついて、顔を服に埋めてきた。もう通行人は大注目である。


「……ダークハートよ。すげえ格好しているな。なんだその真っ黒なコートみたいな格好」


「変装じゃ! ふふふ、あまり舐めないで貰いたいのじゃが、この服装は魔族渾身の技術力が詰まっておっての。通気性抜群で暑くないのじゃ!」「


「へぇ……」


 まあ暑くないのはいいけれど、だが変質者には変わりない。というか魔界渾身の技術力って言っても、もっとこう……他になかったのだろうか。肌を隠すコートみたいな服で、更に通気性抜群ってもう変質者専用のものじゃん。ターゲット層どこだよ。


「でもダークハートさん……さすがにあれですから脱いだ方がいいんじゃないですか? 今の方がかなり目立ってそうですけれど……」


「だよねユイ! 私もそう思った」


 当然のご意見である。俺も同意見だ。多分今の方が目立っていると思うし、可能ならもう少しマシな路線で行って欲しいところである。


「それは無理じゃな! だってこの服を脱いだら目立つことになるのじゃ!」


「いや……だから……」


 俺が説得しようと試みると、ぐっとダークハートが近づいてくる。


「だから無理なのじゃ……! 恥ずかしいのじゃ! だって……ほれ」


 そう言って、ダークハートがちらりとコートの中を見せてくる。


 水着だ。しかもこの状況……街中でちらりと服の中を覗かせ、薄暗衣服の中から覗かせる紫、フリルも見えた。水着なんて、そもそも下着のようなもの。というか水着って下着みたいなものだから、もうあれである。


「っっっ……!?」


 思わず一メートルほど距離を取ってしまう。というか、危うく転げそうになってしまった。


「おまっ……! 本当に変質者じゃねえか!」


「どうしたの!?」


「何があったんです!?」


 見てはいけないものを見てしまった。これは確かに服は脱げない。このコートを脱いでしまうと、もう水着一枚の変質者である。海に行くとはいえ、それはもう気合いが入りすぎている。それをやって許されるのは馬鹿な学生だけである。いや、学生でも許されないかもしれない。


「えへへ……カイルだけじゃぞ……」


 赤面しながら答えるダークハート。わなわなと震える俺。


「本当に何があったの? あのコートの中には何があるの!?」


「き、気になりすぎるので答えてくださいカイルさん!」


 俺は……何も見ていない。こんなの犯罪だ。エリサたちに答えてしまったら、俺はもう獄中に放り込まれてしまう。セクハラとかそんな次元ではない。


「……俺はぁ、何も見ていない。ああ、何もなかった。ダークハート、お前はその格好でいい。サングラスは外した方がいいが、お前は今のままでいてくれ」


 頭が痛い。寒気もする。俺はもうダメかもしれない。


「カイルが言うのだから脱げないのぉ! そんなことより、行くぞお主ら!」


 そう言って、駅の中に入っていくダークハート。俺も大人しく着いていく。背後からエリサたちが騒いでいたが、別に構わないだろう。もう切り替える。


 駅構内を歩いていると、数多くの魔族たちが行き交っていた。駅……俺はよく分からないが、少なくとも魔族たちにとっての交通手段であるのだから多いのは当然か。しかしこのようなものを人間界側にも繋ぐと考えると、かなり時間がかかりそうだ。まあここは魔族側の超技術とやらで短縮できたりもしそうではあるが。


「五番線じゃな」


 そう言って、ダークハートが駆けていく。俺たちはもう彼女について行くしかないわけで、キョロキョロと周囲を見渡しながら歩く。もう田舎者丸出しではあるが、この際どうだっていい。


「ここがホームじゃ! 線路とか見るのは初めてなんじゃないのか?」


「初めてだよ……すごいなこれ」


 恐らく鉄なのだろうが、それが地面に重なり、道のようになっている。


「わぁ! すっごいねぇこれ! 人もいっぱい!」


「ファンタジーですね! ファンタジー!」


 二人も初めて見たそれにテンションが上がっていると言った様子である。線路をまじまじと見ていると、何か遠くから音がしてきた。


「来たぞ! あれが魔導列車じゃ!」


 ダークハートが指さす方向を見てみると、巨大な車体を持った列車がこちらに走ってきていた。ガタンガタンと地面が微かに揺れているし、音もかなりのものだ。車体が俺の前を通過し、ゆっくりと止まっていく。かなり大きいし長い物体だ。


 俺は半ば萎縮していると、正面に止まった車体の扉が音を立てて開く。


「乗るのじゃ!」


 そう言って俺の手を引くダークハート。手を何故握るのかというツッコミを入れる間もなく、俺は魔導列車の中へと入る。


「うおおお……なんか落ち着いた雰囲気だな……」


 中はどこかレトロチックで、懐かしさすらも覚えてしまう。真っ直ぐ続く通路には向かい会った椅子が設置されていて、乗客が各々座っていく。


「カイル! はやくはやく!」


「座る場所なくなってしまいますよ!」


 俺とダークハートを追い越し、二人が通路を駆けていく。もうどこか二人は馴染んでしまっているので、これが若さなのかと少し感心してしまう。


「妾たちも座るかの」


「だな。席はこの様子だと二人が取ってくれてるだろう」


 なんて言いながら歩き、魔族たちの様子を見る。これが魔族にとっての日常だと思うと、なんだか未来を見ているようだなと思って感動してしまう。これほどまでに人間と魔族とで技術力の差があると思うと、やはり和解という流れになってよかった。


 万が一戦争になっていたりしたら、間違いなく人間側が負けていただろう。人間側は魔族のことをあまり理解していなかったようだし、情報もほとんどなかったのだから当然とも言える。


「こっちこっち!」


「こちらですよ!」


 どうやら二人が席を確保したようなので、俺たちもそちらに向かう。


 ダークハートと俺、エリサとユイで向かい会う形の席に座る。少し疲れていたので、やっと腰を下ろせたことに安堵した。


 ぐっと伸びをしていると、扉が閉まり車体がガタリと揺れる。


 もしかして……動くのか……! と外を眺めようとしていると、ダークハートがくすりと笑った。


「やはり気になるのじゃ?」


「そりゃもちろん。田舎者は都会の技術に興味津々だからな」


「うむうむ! 妾も興味を持ってくれるのは嬉しいのじゃ! 急ぎで人間界にも繋がるよう努力せねばな!」


 そう言ってくれるのは心強い。人間界にも早く繋がって欲しいものだ。


「ああ! 動き始めたよ!」


「おおおお! テンション上がりますね!」


 二人がぐっと体を窓に近づけ、興味津々で外を眺める。もうオッサンの俺も少し気恥ずかしいが、窓に手を当てて外の光景を眺めていた。


 ガタンと車体が揺れ始め、ゆっくりと動き始める。


 景色が移ろぎ始め、次第に速度も速くなっていく。


 気がつく頃には速度も上がり始め、かなりの速度で動き始めていた。これが魔導列車か。感動してしまうな。


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