121.目立ってるなあれ
「海に行くなら準備しないとな……俺、水着なんて持ってないし」
「あ、それなら私も買わないと。可愛い感じの欲しい!」
「水着……ふふふ……ダークハートさんに負けるわけにはいきませんね!」
「確かに! よーし! ちょっと本気出すかぁ!」
どうやら彼女たちも水着を買いに行くようだ。しかもかなり気合いが入っている様子。
「良かったら俺も一緒に買いに行ってもいいか?」
「「ダメ!!」」
「あ……そっか……ごめんな……オッサンが一緒だと嫌だよな……」
「そういうわけじゃないんだけど! 全く、カイルはもしかして女心が分からない鈍感くんなのかなぁ?」
「困りますよカイルさん! 鈍感くんはモテませんよ!」
鈍感って……純粋にオッサンと一緒に水着を見に行くのが嫌だったんじゃないのか? それ以上の意味が含まれているとなると俺にも分からないから……確かに鈍感かもしれない……。
「それじゃあ別行動だな」
「そうだね! カイルと離れちゃうのは寂しいけど、今回ばかりは仕方ない!」
「わたしたち、とっても可愛い水着を買ってくるので楽しみにしておいてください!」
「ああ。楽しみにしてるよ」
と自分で言って、「楽しみにしてるよ」ってかなり気持ち悪い発言をしてしまったのではないかと焦るが、彼女たちは特に何も気にせずどこかへ行ってしまった。下手すればセクハラ発言であったとは思うが、二人が何も気にしていないようで安心した。
「さて……良い感じの水着でも探すか」
地味なものがいいな。しかし水着選びだなんて初めてな気がする。まあ地味なのでいいか。変にこだわりすぎて滑った時が悲しくなるし。大人しく普通のやつを選ぼう。
◆
「むふふ」
「ふへへ」
「なんだその気持ち悪い笑い方。怖いんだけど」
そんなツッコミを入れつつ、俺たちは海へ向かう日がやってきた。久々のバカンスである。気合いを入れてしっかりと宿も取って置いた。しかも宿には温泉があるらしい。だからと行って変な笑い方をしている二人は気持ち悪いなと思うが、しかし楽しみなのは理解できる。
「だが……気合い入れすぎて遠い場所にしちまったなぁ……」
魔界の首都を歩きながら、俺は息を吐く。というのも、せっかく魔界へ行けることになったのだから、魔界の観光地を見てみようという話になったのだ。ダークハートにも色々と聞いたところ、首都から出ている魔導列車に乗って数時間で良い感じの海へと行けるらしいのでそこへ向かうことになった。
「ダークハートは……どこかな」
首都の駅までやってきた俺は周囲を見渡す。ここでダークハートと待ち合わせをしていたのだが、かなり人が多い。これは探すのに苦労しそうだと思っていたのだが……意外とそうでもないようだった。
「カイル……? あれじゃない?」
「……違うだろ」
「いやいや、絶対あれですよ。あのサイズ感に……あの角。それに見てくださいと言わんばかりの真っ黒な衣装」
確かに、彼女たちが指さす方向には真っ黒な衣装を身にまとい、明らか変装しています感を出しているサングラスをかけている小さな子がいた。
「いや~……あれはぁ……目立ってるな……」
恐らくというか、間違いなく変装しているのだが、なんというか隠れられていない。国家を統べている魔王だとは思わないだろうが、形がもう変質者である。
「あ、目が合った」
エリサがぼそりと呟くと、黒い塊がこちらに向かって必死に手を振ってきた。しかもぴょんぴょん跳ねながら。もう変質者に磨きがかかっている。
あの中に合流しに行くのが正直嫌すぎるのだが、今すぐ辞めさせないと更に目立ちそうなので大人しく向かうことにする。