12.素晴らしいッッッ!
「闘技場はこちらでございます」
「ええ……本当にやるんだ」
その後、俺は「先に行っててくれッッッ!」と言われたのでメイドさんの指示に従って動いていた。
廊下をしばらく歩き、外に出ると大きな建物が見えてくる。
「闘技場って家にあるものなの……?」
「筋肉の化身ですね……」
案内されるがまま、闘技場と呼ばれる施設の中に入った。
中は筋トレ器具と武器が大量にあり、まさに筋肉のための施設といった様子だ。
その中央にあるリングの上にあがり、俺はリエトン伯爵を待つ。
「やっぱりやめたいな――」
「待たせたなッッッ!」
「あ、ああはい」
バン、と扉が開く音がしたかと思うと、上半身裸の男がそこにいた。
「もう視界はいいわ。慣れましょう」
「筋肉だ……」
エリサたちはもう諦めた様子である。
まあ、こんだけやられたら諦めもするだろう。
「はぁぁぁぁぁッッッ!!!」
全速力で走ってきて、リングの上に飛び乗ってくる。
顎に親指をかすらせて、ハッと笑ってみせた。
「筋肉の調子は万全だッッッ! やろうッッッ!」
「わ、分かりました」
「メイドッッッ! 合図を頼むッッッ!」
「かしこまりました」
メイドの対応……これ、慣れているんだな。
普段からこんな感じとなると、大変そうだ。
「3.2.1.GOー」
「ちょ、はや――」
あまりにも流れるように合図をするものだから、俺は構える前に戦闘が始まってしまう。
目の前にいるリエトン伯爵はぐっと拳を引き、そしてゆっくりと動かす。
「ハッッッ!!!」
寸前まで来た瞬間、一気に拳を加速させた。
それと同時に、俺の胸に衝撃波が走る。
「うごっ!?」
俺はもろに攻撃を受けてしまい、変な声が出てしまった。
「……って、あれ。なんもない」
「おおおッッッ! さすがはカイルだッッッ!」
さっきの強力そうな一撃を食らっても、俺は無傷だった。
ああ……確かステータスを見た時に防御力も頭おかしいことになってた気がする。
「普通の人間ならば内臓が破裂して死んでいたぞッッッ!」
「そんな攻撃を俺に放ったんですか!?」
「本気を出してもいいと思ってなッッッ!」
全然よくない。
俺はまだ死にたくないし。
というか、こんなところで死ぬのは嫌だし。
「んじゃ、次は俺の番ですね」
今回の試合に関して言えば、ある程度力を出してもいいだろう。
なんなら相手はそれを望んでいる。
それに答えなければ、男として失格だろう。
「ふぅぅぅ……」
俺は深呼吸をし、相手を見据える。
拳を構え、そして思い切り放つ。
――ゴォォォォォン!!
爆発音がすると同時に、衝撃が闘技場内に広がる。
「ぬおおおおおおおッッッ!」
リエトン伯爵はどうにか堪らえようとするが、耐えきれずその場から吹き飛ばされていった。
「あ……やべ。やりすぎたかも」
さすがに、ここまで貴族をぶっ飛ばすのはヤバイよな。
俺、もしかして殺される?
やばい、今すぐに謝らないと――
「素晴らしいッッッ! 素晴らしいぞッッッ!」
しかし、噴煙の中からリエトン伯爵は嬉々として出てきた。
ええ……なにあれ化け物ですか?
「君なら熱く燃え上がりそうなワームバトルが見られそうだ!! 早速行こう!! 寝ているワームを叩き起こして燃え上がるような戦いをしよう!!」
早口で語りながら、上半身裸の巨漢がこちらに向かってくる。
え、ちょい待てこれって──
「え、うお……!?」
「ふんッッッ!!」
リエトン伯爵の胸筋が俺の顔面に……!!!!
「ああ……可哀想……」
「救えませんね……あれは」
死ぬ。